本研究の目的は、言語処理のどのプロセスが思考に干渉し、外国語副作用を引き起こしているかを調べることであった。基本的な実験方法は二重課題法であり、被験者は言語課題と思考課題を同時に遂行した。言語課題は母語あるいは外国語で行い、思考課題の成績が外国語条件で母語条件よりも低かった場合には、外国語副作用が生じたと判断した。 実験1では、語彙アクセスのプロセスが思考に干渉するか否かを調べるために、言語課題では語彙性判断課題を行い、同時に行う思考課題(非言語性知能因子に負荷する知能検査問題)への影響を検討した。被験者は英語を母語とする学生・社会人24名。言語課題は母語(英語)と外国語(日本語)で行なった。その結果、思考課題においては、外国語条件では母語条件より成績が有意に低くなり、外国語副作用の生起が確認された。言語課題は聴覚的に提示されたので、この結果から、音声解析プロセスと語彙アクセス・プロセスのどちらか又は両方が思考に干渉することが明らかになった。 実験2では、L2英語能力に差があるスイス人(TOEFL国別平均97/120)と日本人(同70/120) では、L2処理の認知負荷にも差あるという仮説を検証した。スイス人大学生40名、日本人大学生38名を対象に、3種類の英文朗読音声を聴取し内容理解問題に解答する言語課題と、聴取前に呈示された図形を聴取後まで保持する記憶課題からなる二重課題実験を行った。実験条件は、記憶図形2つの低負荷条件、4つの高負荷条件、負荷なし条件で、各条件に一つの英文を割り当てる参加者内計画であった。結果は、記憶負荷が大きくなるに連れて、内容理解問題の正答数が減少するという線形傾向が見られたが、この効果に日本人とスイス人の差はなく、参加者群間でL2英語処理による認知負荷に差があるとは言えなかった。
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