1. 最終年度の実績 両耳分離聴課題時において2実験条件を設定し、左右耳間の音周波数の差異が聴性脳幹反応(ABR)と注意関連陰性電位(Nd)に及ぼす効果を検討した。第1条件では各耳へ同じ標準刺激500Hz(p = 0.99)と標的刺激600Hz(p = 0.01)を提示した。第2条件では左耳へ標準刺激250Hzと標的刺激450Hz、右耳へ標準刺激500Hzと標的刺激600Hzを提示した。全刺激で持続10ms、音圧35dB SL、刺激開始間隔180-320msとした。左耳注意課題と右耳注意課題との間で、各標準刺激に対する事象関連電位(ERP)を比較した(ERP算出の際、Nd出現が明確であった試行ブロックのみを分析に用いた)。参加者12名(右手利き)の結果において、標的刺激に対する行動指標(正答率と反応時間)は第1条件と第2条件の間で差異を示さなかった。Ndは第1条件と第2条件の両者において有意に出現し、両条件で大脳皮質水準の選択的注意が成立することを示した。一方、ABR振幅の選択的注意効果は第1条件で注意 > 非注意が有意になったものの、第2条件の左耳刺激で検出が困難になり、右耳刺激で極性逆転(注意 < 非注意)の傾向が生じた。以上の結果から、Ndと比較してABRの選択的注意効果は不安定であり、より限定された両耳分離聴条件で可能になることが明らかになった。
2. 研究期間全体の実績のまとめ (1)対側ノイズ提示はABRの注意効果を成立させる実験条件として必須でない。(2)感覚様相(聴覚と視覚)間注意事態ならびに両耳分離聴事態において、ABRに選択的注意効果が成立する。しかし、その効果は刺激条件に制約されやすく、両耳分離聴時の後期ERP(Nd)が示す一般性と対照的である。(3)注意はABRの両耳間相互作用(両耳刺激反応が片耳刺激反応の和と異なること)に影響を与える。
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