研究課題/領域番号 |
23530952
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
松本 絵理子 神戸大学, その他の研究科, 准教授 (00403212)
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研究分担者 |
内藤 智之 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90403188)
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キーワード | 注意 / 脅威 / 表情 / 不安 |
研究概要 |
社会集団生活を営む人間にとって、他者の怒り表情は脅威シグナルとなる。しかし、脅威の知覚過程ではどのような特徴を抽出し認識しているのかについて不明な点が多い。本研究では、どのような特徴に基づいて「脅威か、否か」の知覚及び選択が行われ、その結果が高次認知レベルに影響を及ぼすかについて検討を行っている。 H24年度はH23年度に実施した実験結果並びに収集した基礎データを踏まえて、脅威表情として怒り表情を用いた実験検討を展開した。H23年度に収集したモーフィング表情の評定結果に基づき、怒り、中庸、笑顔の表情刺激を用いて、意識的に注意を向けられない脅威表情が認知的処理プロセスに及ぼす影響の違いを検討した。さらに表情の物理的特性が及ぼす影響を検討するため、空間周波数並びに顕著性の数理的解析を併せて行った。 また本研究では、実験参加者の脅威情報処理に対する個人特性が及ぼす影響について、不安特性、気分、ストレス等の指標を用いて検討した。近年、高特性不安の場合には脅威表情処理に対する前頭葉の抑制的メカニズムが低下すると報告されている(Bishop,SJ., Jenkins, R., & Lawrence, A. 2007, Cerebral Cortex)。本研究では実験参加者20名の表情知覚効果と不安特性を評価したところ、不安特性の高さと怒りの妨害効果に強い相関が得られた。これらの成果について、国内外の学会で報告し、現在学術論文を準備中である。また、脅威刺激のもつ基礎的な視覚属性や呈示タイミング等が認知過程に及ぼす影響を調べるために基礎的解析研究並びに数理モデル研究も併せて行い、学術雑誌並びに学会発表にて報告を行った。本研究で得られたこれらの知見は、社会的脅威を知覚し回避するシステムの基盤を明らかにし、社会不安障害などの病理メカニズムの解明に寄与することが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度は、平成23年度に得られたデータを元に研究を発展させ、脅威刺激として人の怒り表情写真および合成により作成された中立表情を用いて、人間の高次認知プロセスに脅威情報処理が及ぼす影響を検討した。 脅威表情刺激を意識的には処理されない条件下で、課題非関連刺激として呈示された場合の中心課題に対する影響と、それらの脅威表情による妨害効果と個人特性について統計的検討を行い、その成果の発表を行った。その結果、意識的にどのような表情が呈示されたのかに気づかない場合においても、認知的負荷が高い場合にはその処理に妨害的な影響を及ぼすこと、脅威刺激は注意の不可避性という特性を持つことが示された。この脅威表情による妨害効果は、個人の持つ不安の知覚傾向やストレス状態等と相関があることも示された。さらに、脅威情報の持つ視覚物理的特性についても、刺激を構成する空間周波数や顕著性などの観点から分析を行い、注意が向けられる基礎的な要件についても知見を得た。刺激の物理的な顕著性の高さと不安の高低による妨害効果には関連は低く、視覚的な特徴分析以前に情動価の評価がなされ、このプロセスが注意過程に影響していることが示唆される。これらの成果は国内外の学会にて発表されたのに加え、学術専門誌に掲載された(Kabata & Matsumoto, Vision Res, 2012)。さらに、現在学術専門誌に投稿準備中である。 これまで本研究で検討されてきた脅威情報が非関連の認知処理に及ぼす影響が、個人の持つ不安特性により異なること、それらは刺激の顕著性等の物理特性による影響は低い事などが示された。今年度の目標であった、脅威情報の詳細な視覚的特徴のデータ蓄積は順調に進捗しているとみられるため、今後は、これらのデータと脳活動計測データとの融合的解析に着手したい。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の成果に基づき、脅威情報の特徴抽出メカニズムの詳細を明らかにし、高次認知プロセスにどのような影響を及ぼすのかを検討を引き続き行う。具体的には、脅威情報を伴う課題遂行中の脳活動を記録し、時間的に認知処理過程のどの段階で、脅威情報処理の影響が見られるかを検討する。平成24年度には、脳波計測(EEG-1100, Neurofax, 日本光電)時における高速視覚刺激呈示システムの整備、並びに信号解析ツールボックスの整備を行い、神経情報処理の専門的見地からの指示を得て基礎的な信号記録並びに解析の準備を行ってきた。特に脅威情報による認知過程への影響の時間特性を検討するために、初期視覚処理段階に関係する成分、顔処理に関する脳波成分を中心に、脅威刺激と同等の視覚的顕著性を持つ非脅威の刺激と脅威刺激との比較を行うことで、情動価の判断プロセスが後続の注意配分に及ぼす影響を検討することを計画している。 平成25年度前半までに脳活動計測実験の追加実験並びに数理的解析を進捗させるために、実験補助者を雇用する。また、昨年度に整備した高度なシグナル解析専門のソフトウエアを活用し、刺激タイミングと脳活動変化との関連を詳細に検討する。さらに実験の実施側面では、実験の準備時間を短縮し、実験参加者にとってもより快適な実験環境を確保するために整備を行う。また、これらの研究成果については、国内外の学会・ワークショップ等に参加し、成果の発表並びに関連研究の情報収集を行う予定である。ウエブページを整備し成果を取りまとめ開示することに加えて、本成果を国際誌へ投稿するために、英文校閲を利用し、成果の公表と還元に努めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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