研究課題
生存を脅かす脅威は、できるだけ素早く見つけられることが望ましい。脅威は通常、予告なく出現するため、生体は脅威が意識的に知覚できないほど瞬時に現れた場合でも、適応的行動を行う必要がある。しかし、脅威のどの側面の情報を抽出し認識しているのかについては不明な点が多い。このような背景から、本研究では、どのような特徴に基づいて「脅威か、否か」の選択が行われ、その結果が高次認知レベルに影響を及ぼすかについて検討を行っている。特に、社会集団生活をする人間にとり、他者の怒りを示す表情は感情的側面において脅威となりうるため、脅威刺激として怒り表情を用いて検討を行ってきた。25年度は前年度までに実施した実験結果を踏まえ、24年度に焦点をあてて検討を行った、脅威情報処理に対する個人特性が及ぼす影響について、不安特性、気分、ストレス等の指標を用いてデータをさらに収集し解析をおこなった。近年、不安や気分などの心的特性と注意情報処理のバイアスについて多くの研究報告がなされているが、特に高特性不安の場合には脅威表情処理に対する前頭葉の抑制的メカニズムが低下するというモデルが注目を集めている。本研究ではこのモデルに基づき、妨害抑制のメカニズムと個人特性について詳細に検討を進めた。本研究では表情知覚効果と不安特性を評価したところ、不安特性の高さと怒りの妨害効果に強い相関が得られた。さらに、視覚探索課題と気分、不安の個人特性との相関を検討したところ、脅威刺激を用いない場合には、逆に、ポジティブな気分と探索成績において相関関係が見られた。また、刺激のもつ基礎的な視覚属性や呈示タイミング等が妨害抑制過程に及ぼす影響を解析する基礎的研究も併せて行い、報告を行った。本研究で得られたこれらの知見は、社会的脅威に対する注意システムの基盤を明らかにし、社会不安障害などの病理メカニズムの解明に寄与することが期待できる。
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基礎心理学研究
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