研究課題/領域番号 |
23530953
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研究機関 | 奈良教育大学 |
研究代表者 |
豊田 弘司 奈良教育大学, 教育学部, 教授 (90217571)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 情動知能 / 自己選択効果 / 分散効果 |
研究概要 |
記銘語に対して個人が想起する自伝的エピソードの時間属性(過去,未来)、適応のための重要性(必要,不必要)、 情動性(快,不快)及び社会的属性(自己,他者)の効果を検討するのが目的であった。本年度は、情動性に注目し、情動知能(EI)の個人差を開発したEI尺度によって測定し、EIの個人差が自伝的エピソードの情動が記憶に及ぼす効果にどのように影響するかを検討した。実験1では、EIの個人差と自己選択効果の大きさの関係を検討した。そこでは、単語対のうち、より快なもしくは不快なエピソードが想起される単語を選択して憶える条件(自己選択条件)と、単語対のうち1つの単語が指示され、その単語を快もしくは不快なエピソードを想起しながら憶える条件(強制選択条件)が設けられた。自己選択効果は自己選択条件と強制選択条件の再生率の差であるが、この自己選択効果は、EI高群が低群よりも大きかったのである。この関連データは、第12回欧州心理学会(トルコ,Istanbul)においてシンポジウム及びポスターで発表した。また、実験2では、EIにおける情動の制御能力が記憶の分散効果(単語を反復提示する場合に連続して提示する集中呈示よりも、間隔を空けて提示する分散呈示が再生率が良いという現象)に影響するか否かを検討した。その結果EI高群は低群よりも分散効果が小さく、情動の制御能力が抑制的に機能する可能性を示唆した。その他、自伝的エピソードの社会的属性に関して予備実験を行った。その結果、単語から想起されるエピソードに自分以外の他者が含まれる場合が含まれない場合よりも分散効果が大きかった。この結果は、参加者の年齢(高校生、大学生)及び単語リストの種類(1文字単語、2文字単語)によって変化はなかった。さらに、新しいEI尺度の作成及び小学生におけるEI尺度の作成も論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
記銘語に対して個人が想起する自伝的エピソードの属性(過去,未来)、適応のための重要性(必要,不必要)、 情動性(快,不快)及び社会的属性(自己,他者)の効果を検討するのが目的であった。本年度は情動性に注目し、EIの個人差と自己選択効果及び分散効果との関連性を明らかにした。また、EIの中の情動の制御能力が分散効果を抑制ることも示すことができた。したがって、自伝的エピソードの属性のうち、情動性に関しては成果をあげることができた。また、社会的属性についても、予備実験を行い、エピソードに自分以外の他者が含まれる場合に記憶が促進されることが明らかになったことは評価できる。したがって、当初目的としていた4つの属性のうち、初年度においてすでに2つの属性について順調に検討がすすんでいる。
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今後の研究の推進方策 |
記銘語に対して個人が想起する自伝的エピソードの時間属性(過去,未来)、適応のための重要性(必要,不必要)、 情動性(快,不快)及び社会的属性(自己,他者)の効果を検討するのが目的であった。本年度において情動性に関してはEIの個人差と自己選択効果及び分散効果との関連性を明らかにし、すでにほぼ検討し終えた。それ故、次年度は予備調査を終わっている社会的属性について検討する。この検討は予備調査において頑健な結果が出ているので、容易に実施可能である。時間属性については数年前の予備実験から材料を選択し、本実験の材料作成を行い、自伝的エピソードの時間軸における新近性効果を検討したい。自伝的エピソードがもつ適応のための重要性に関しては、実験の方法は完成しており、単語リストの作成だけが残されている。課題はあるものの、当初の計画の推進に関して問題はなく、今後の研究の推進に関しては着実に上記の研究を進めるのみであり、研究が順調に進むことを期待している。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、成果を発表するための国内学会への旅費等にあてる。具体的な学会は、日本認知心理学会(岡山大学)、日本心理学会(専修大学)、日本教育心理学会(琉球大学)、関西心理学会(滋賀県立大学)である。日本教育心理学会ではシンポジウムを予定している。また、残りの費用は、海外誌に投稿するための英文校閲の費用にあてる。
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