研究課題
女性は男性の2倍程度抑うつや不安などの情動障害に罹患しやすく、その発症にはエストロゲンなどの性腺ホルモンが深く関与すると考えられている。しかしながら、実験的研究では、用いられるエストロゲンの用量や作用期間等の方法論的相違により、情動関連行動に及ぼす効果は必ずしも一貫していない。我々はこれまでの研究で、高用量の17β-estradiolの投与は、単回投与であっても、長期慢性投与であってもメスマウスの情動行動を亢進させることを確認した。また、この時の血中の17β-estradiol量は自然発情周期における発情期よりも高く、むしろ妊娠期に相当する濃度であった。したがって、高用量のエストロゲンの慢性処置を受け、情動関連行動が亢進したマウスは「マタニティー・ブルー」や「産後うつ」の動物モデルとなりうると考えられる。平成25年度の研究では、この情動亢進効果が2つのエストロゲン受容体サブタイプ、ERαとERβのどちらを介して発揮されるのかを確定するため、17β-estradiolに相当する濃度のERαアゴニストとERβアゴニストを長期慢性投与し、メスマウスの情動行動を測定した。その結果、ERαアゴニスト投与を行った場合には、高用量のエストロゲン投与と同様に、メスマウスの不安様行動が増大するが、ERβアゴニストを長期慢性的に投与したときには、逆に不安抑制効果が認められることが明らかとなった。したがって、エストロゲン長期慢性投与による情動亢進効果は主としてERαを介して発揮されるものと考えられる。さらに、この効果は副腎除去により減衰することも示唆されたため、ストレス対処の神経内分泌反応系である視床下部―下垂体―副腎軸(HPA軸)がエストロゲンの情動亢進メカニズムに関与している可能性が高いと言える。
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