研究課題/領域番号 |
23530958
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研究機関 | 岩手県立大学 |
研究代表者 |
桐田 隆博 岩手県立大学, 社会福祉学部, 教授 (20214918)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 怒り顔の優位性 / 表情探索課題 / 注意 |
研究概要 |
表情探索課題における怒り顔の優位性について、初年度は妨害刺激の冗長度(stimulus redundancy)の要因を中心に検討した。表情写真を刺激として用いた場合、妨害刺激の冗長度によって優位な表情が変動することが報告されている(Ohman et al.,2010)。そこで、本研究では口を閉じた表情写真を刺激とし、さらに、妨害刺激が標的刺激と同一人物の場合(実験1:冗長度高)と、妨害刺激が標的刺激とは異なる複数の人物の表情の場合(実験2:冗長度低)で、表情の優位性がどのようになるか実験的に検討した。 顔表情データベース(ATR-Promotions)の中から男性5名の中立、幸福、怒りの表情(口を閉じたもの)を刺激とした。実験計画は、実験1、2とも標的なしの場合は3(表情)×3(セットサイズ)、標的ありの場合は4(標的・妨害の表情の組み合わせ)×3(セットサイズ)で、いずれの要因も参加者内要因であった。 実験1では、標的なしの条件では、幸福顔の走査が最も速く、次いで中立顔、怒り顔の順となった。標的ありの条件では、妨害刺激が中立顔の場合は、怒り顔及び幸福顔の検出に差は見られなかった。これに対して、妨害刺激が表情顔の場合は、幸福顔を背景とした怒り顔の検出が、怒り顔を背景とした幸福顔の検出より速く、怒り顔の優位性が観察された。 実験2では、標的なしの条件では、中立顔の走査が最も速く、幸福顔の走査がこれに続き、怒り顔の走査は極端に遅くなった。標的ありの条件では、いずれの表情の優位性も観察されなかった。ただし、妨害刺激としての怒り顔に対する走査が極端に遅いにもかかわらず、標的刺激としての幸福顔の検出は、走査が速い幸福顔を妨害刺激とした場合の怒り顔の検出と同等であったことを考慮すると、本実験の結果を幸福優位の傾向と見ることもできる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
表情検出課題における怒り顔の優位性は、標的刺激と妨害刺激の種類や関係性によって変動することが最近の研究(Ohman et al.,2010)によって報告されている。そこで、まず、怒り顔の優位性が生起する条件について検討する必要がある。今年度は、その条件のうち、妨害刺激の冗長度という観点から検討し、この要因が怒り顔の優位性に大きく関わることが示された。この結果は、今後、怒り顔の優位性が生起するメカニズムを解明する上で重要な起点となった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画としては、表情に注意を向けていない状況、あるいは表情が課題に関連しない状況での怒り顔の優位性について検討を進める予定であった。しかしながら、今年度の研究によって、怒り顔の優位性は怒り顔に対する優先的な注意の惹きつけにその起源があるというよりは、妨害刺激の処理様式や処理資源に依存して生起すると考えた方が、これまでの一貫性に欠ける研究結果を包括的に説明できる可能性が示唆された。そこで、次年度以降は、当初の研究計画を若干変更し、個別的な表情刺激の処理様式、および、複数の妨害刺激としての表情の処理様式を明らかにすることで、表情探索課題における怒り顔の優位性の起源を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、当初予定していた海外での研究発表が間に合わなかったことから、その旅費に割り当てられた分の予算が次年度へと繰越になった。次年度は、精力的に研究を進め、昨年度の研究成果を含めて国内外の学会および研究会において発表する計画である。したがって、次年度は、研究費の7割程度を実験に必要な謝金と研究成果発表の旅費に割り当てる予定である。
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