研究課題/領域番号 |
23530958
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研究機関 | 岩手県立大学 |
研究代表者 |
桐田 隆博 岩手県立大学, 社会福祉学部, 教授 (20214918)
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キーワード | 表情認識 / 怒り顔優位性 / 注意 / 注意の瞬き |
研究概要 |
今年度は高速系列視覚提示(RSVP)状況における注意の瞬き現象(attentional blink)を指標として、注意資源の配分に及ぼす怒り顔および幸福顔の影響について実験的に検討した。 注意の瞬きとは、RSVP状況において、第1標的の提示後約500ミリ秒以内の間隔で提示される第2標的の報告が困難になる現象で、この現象には容量に限界のある注意資源の配分が関与するとされる。すなわち、第1標的の知覚に向けられた注意資源は、第1標的の知覚が確立するまでの一定の間は第2標的に配分されず、これによって第2標的の知覚が妨げられるという。この仮説を前提とした場合、第1標的への注意停留が長いほど、注意の瞬きは大きくなること、また、注意資源をそれほど必要としない刺激が第2標的として設定された場合、注意の瞬きは小さくなることが予測される。 先行研究では、検出課題の場合、怒り顔は他の表情顔より迅速に検出されること、また、怒り顔への注意の停留が長いことが報告されている。ただし、先行研究においては、表情顔の歯の露出という要因が統制されていない。そこで、今回の実験では、表情顔の歯の露出を要因に加え、怒り顔、幸福顔、中立顔を第1標的および第2標的にした場合に、注意の瞬き現象がどのように変動するかについて検討した。 実験の結果、表情顔が第1標的の場合は、歯の露出の有無によらず、怒り顔条件より幸福顔条件において注意の瞬きが大きくなることが示された。これに対して、表情顔が第2標的の場合は、歯の露出要因と表情の交互作用が見られた。すなわち、歯の露出がない場合は、怒り顔条件で最も注意の瞬きが大きくなり、歯の露出がある場合は、注意の瞬きは怒り顔条件と幸福顔条件で同程度となった。これらの結果は、これまでの先行研究が主張する怒り顔に対する優先的な注意配分とは異なり、注意配分における幸福顔優位性を示すものと解釈される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの先行研究では、表情検出課題における怒り顔の優位性が主張されているが、検出に大きな影響を与えると考えられる表情刺激の歯の露出要因についてはほとんど考慮されていない。本研究では、まず、実験で使用する表情刺激の歯の露出を統制することに重点を置きつつ、怒り顔の優位性について、これまで用いられてきた研究パラダイムに基づいて再検討してきた。初年度は、歯の露出しない表情顔を刺激とし、視覚探索課題を用いて表情顔の検出について検討した結果、怒り顔の優位性は観察されず、むしろ幸福顔優位が示唆された。 研究2年目は、幸福顔の優位性の起源について、表情顔の知覚方略の観点から検討した。ここでも、歯の露出しない表情顔を刺激として、合成顔パラダイムを用いて、怒り顔、悲しみの顔、幸福顔、驚きの顔に関して、部分知覚および全体知覚の観点から検討した。その結果、幸福顔の知覚は、他の3つの表情より全体的知覚の方略が優位であることが示された。全体的知覚は検出の迅速性に大きく関わることから、幸福顔の優位性の起源のひとつの要因と考えられる。 研究3年目の今年度は、注意の瞬きの観点から怒り顔と幸福顔が注意機能に与える影響について検討した。今回は歯の露出を実験要因の1つとして組み入れて検討した。得られた実験結果は怒り顔の優位性を示すものではなく、むしろ幸福顔の優位性と整合するものであった。 上述の実験で採用したパラダイムは、当初予定していたものと多少異なるが、怒り顔の優位性と注意機能の関連について、表情刺激の歯の露出要因を考慮して検討した結果、これまでの先行研究の主張とは異なる見解を導くものとなっており、一定の成果が得られたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験によって、表情顔の歯の露出要因を考慮した場合、表情検出における怒り顔の優位性が見られないことが明らかになった。ただし、結論を確証するためには、まだ採用していない実験パラダイムでの検討が必要であろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究初年度に予定していたトゥルーズ(フランス)での研究発表が大学における東日本大震災の対応のためにできなかった。 主として、2014年8月24日~28日にベオグラード(セルビア)で行われる 37th European Conference of Visual Perceptionで研究発表する旅費として使用する。
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