研究課題/領域番号 |
23530959
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
川辺 光一 大阪市立大学, 文学研究科, 准教授 (30336797)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 作業記憶 / sensorimotor gating / NMDA受容体 / グルタミン酸 / 認知障害 / 統合失調症 / 動物モデル / ラット |
研究概要 |
今年度は、成体ラットにストレスホルモンであるコルチコステロンを慢性投与し、この処置の認知機能に対する効果を調べた。この実験は、後に行う予定である新生仔期NMDA受容体拮抗薬反復投与ラットに投与するコルチコステロンの用量を決定するために行われた。行動指標には、sensorimotor gatingの指標であるprepulse inhibition (PPI)、作業記憶の指標である自発的交替反応、オープンフィールド内での一般活動性を測定した。コルチコステロンは浸透圧ミニポンプ(model 2ML4, Alzet)を用いて投与された。低用量群は140mg/2ml、高用量群は420mg/2mlのコルチコステロンを、溶媒群はジメチルスルホキシド2mlをミニポンプに封入した後、ミニポンプを腹腔内に埋め込んだ。この処置によって、低用量群においては1日あたり5mg、高用量群においては15mgのコルチコステロンが28日間にわたり持続的に投与されることが期待された。各行動指標は、手術の直前、および手術から2、4、6週間後の計4回測定を行った。結果として、いずれの行動指標においてもコルチコステロンの効果は認められなかった。この結果は、コルチコステロン慢性投与がsensorimotor gating、作業記憶、一般活動性に影響を及ぼさないことを示唆するものである。しかしながら、本実験ではコルチコステロン慢性投与により起こりうるはずである体重減少も認められなかったことから、ミニポンプによる薬物投与が期待通りに行われなかった可能性がある。また、同一個体に同じテストを繰り返したことによる慣れの効果が認められた。この効果がコルチコステロンの効果を隠蔽した可能性も考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、コルチコステロン慢性投与の方法として浸透圧ミニポンプによる投与を用いたが、コルチコステロン投与により期待される体重減少が認められなかった。このような結果が得られた理由に、ミニポンプからの薬物の放出が期待通りのものでなかった可能性が考えられる。また、同一テストの繰り返しによる慣れの効果も認められたため、薬物の効果が隠蔽された可能性がある。以上の理由により、今年度行ったコルチコステロン慢性投与の効果についての実験について再検討する必要が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように今年度の実験では、コルチコステロン慢性投与の効果が認められなかったため、実験手続きを変更して再度この効果について調べる予定である。具体的には、慢性投与の方法としてミニポンプにカテーテルを接続する、もしくは注射による投与を行うなどの変更を加える。また、テストの繰り返しによる慣れの効果も示唆されたため、同一個体に同じテストを繰り返さないよう、実験週の要因を被験体間要因に変更することも視野に入れる。 同時に、成体ラットに慢性ストレスを与え、その認知機能に対する効果を調べる。慢性ストレスの負荷方法として強制水泳を用いる予定である。1日20分間の強制水泳を4週間繰り返し、ストレス負荷前後の認知機能の変化を調べる。 上記の実験終了後に、統合失調症動物モデルである新生仔期NMDA拮抗薬反復投与ラットに対し、コルチコステロン慢性投与、慢性ストレス負荷を行い、このラットの認知機能に対する効果を調べる。NMDA受容体拮抗薬にはMK-801 (0.2mg/kg)を用い、7~20日齢時において1日2回投与する。このラットが成育した後、コルチコステロン慢性投与、慢性ストレス負荷を加え、これらの処置の前後の行動指標の変化を調べる。この用量のMK-801は単独では行動に対する影響は小さいが、コルチコステロン慢性投与、慢性ストレス負荷を組み合わせることにより行動に対して顕著な効果をもたらすことが期待される。このような結果が得られた場合、新生仔期NMDA拮抗薬反復投与ラットはストレスホルモンやストレスに対して脆弱であるということが示唆される。 上記の実験系のいずれについても、行動指標には今年度と同様にPPI、自発的交替反応、オープンフィールド活動性を用いる。次年度においては、成体ラットに対するコルチコステロン慢性投与、慢性ストレス負荷の効果を調べる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費は主に、ラット、コルチコステロン、およびストレス負荷のための強制水泳装置に充てる。また今年度、驚愕反応装置に驚愕反応のサンプリング頻度を向上するための改修を加えた(データロガーの購入とそれに伴う驚愕反応装置の改修)が、この装置には驚愕刺激の音量の微妙な調節が非常に困難であるという問題点があり、これを改善する必要が残されている。このため、前年度使用予定額の残額分はこの改修に充てる予定である。
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