統合失調症のtwo-hit仮説は、統合失調症患者はもともと遺伝的・発達初期の要因に起因する脳の脆弱性を有しており、発達後にストレスなどの後天的要因を受けることによって統合失調症が発症すると考える説である。この仮説に基づき、今年度は統合失調症モデル動物である新生仔期NMDA受容体拮抗薬(MK-801)投与ラットに対し、その成育後に強制水泳ストレスを慢性的に負荷した後の行動変化を追跡することにより、この動物がストレス脆弱性を有するかどうかを調べた。7~20日齢時にMK-801 0.2 mg/kgもしくは生理食塩水を1日2回投与し、8週齢に到達した時点で1日15分の強制水泳ストレスを20日間(週5日×4週間)にわたって負荷した。強制水泳ストレス負荷終了後に、感覚運動ゲーティング(sensorimotor gating)の指標であるプレパルス抑制(prepulse inhibition; PPI)、作業記憶の指標である自発的交替反応、オープンフィールドテストによる一般活動性、陰性症状様症状(意欲の低下)の指標である強制水泳テストにおける無動時間を測定した。 その結果、いずれの行動指標においてもストレス負荷の効果は認められず、新生仔期MK-801反復投与ラットがストレス脆弱性を有しているという証拠を得ることはできなかった。一方でこれらのラットにおいて強制水泳における無動時間が減少するという結果が得られた。この結果は仮説とは逆の結果であるが、新生仔期MK-801反復投与がストレスに対する慣れや適応を妨げるということを示唆するものなのかもしれない。また、ストレス負荷の手続きや飼育条件がストレスの効果を弱めてしまった可能性も考えられるので、これらの可能性を排除した実験計画を実施する必要があるのかもしれない。
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