本研究は、これまで心理物理学的な資格研究においてほぼ独立に検討されてきた、「その物体が何であるかの認知(物体認知)」と、「それに対してどのようにアプローチすれば良いか(把握すべき場所と方法等の認知)」という2つの問題をつなぐ可能性の一つとして、物体運動、特にバイオロジカルモーションに内在する因果構造に着目し、この因果構造を人間がどのように捉え、また利用しているのかについて検討する。具体的方法としては、ベイジアン・ネットワークを利用して因果構造を内包する運動し的を作成し、その運動のクリティカル・ポイント、軌跡、逸脱運動の検出についての実験的研究を行う。 2014年度の研究では、ヒトの腕に類似した、階層構造を持つ連結運動を想定し、この運動のクリティカル・ポイントを検出する課題を用いて、階層構造が検出される必要条件を検討する実験を行った。具体的には、階層の上位にある要素の運動について複数のパターンの軌跡と運動の大きさを設定して上記実験のパフォーマンスを比較したところ、円弧状およびサイン波状の運動ではパフォーマンスが低下することが示された。これは、階層構造の下位要素の運動の相殺に繋がるためと考えられる。また、実験結果より、階層下位の要素の運動の共通要素から上位の位置を特定するというプロセスよりも、単純な動きや静止といった局所的な要素から上院の位置が想定され、そこを起点とする階層構造が想定されるというプロセスの方が、データに合致していると考えられた。
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