研究課題/領域番号 |
23530963
|
研究機関 | 日本福祉大学 |
研究代表者 |
中村 信次 日本福祉大学, 子ども発達学部, 教授 (30351084)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 自己運動知覚 / ベクション / 画像特徴 / 心理実験 |
研究概要 |
平成23年度は、研究計画の初年度として、先行研究の再整理を行い研究の実行計画を調整した上で、実験環境の整備を行った。過年度の研究計画によって構築済みの実験装置の視覚刺激計算用PCを増強し、実時間での自然画像処理が可能なシステムの構築をめざした。一部、要件定義が完了せず、実験機器の導入を次年度以降に繰り延べた部分があるものの、自然画像を用いた予備的な実験が可能な環境を作り出すことが出来た。 また、予備調査として、ランダムドットパターンを用いた画像特徴が視覚誘導性自己運動知覚(ベクション)に及ぼす影響を検討し、刺激輝度および背景との輝度コントラストの動的変化がベクションに影響を及ぼすことを示す心理実験結果を得た。さらに、自然画像を用いたベクション実験も、本年度予備的・先行的に実施しており、自然画像の色彩操作、空間周波数操作によるベクションへの影響を分析する実験を行った。具体的には、実際の風景を移動カメラで撮影した動画像に対し、刺激周辺部の高空間周波数除去(「ぼかし」操作)と刺激全体の彩度強調を行うことにより、視覚刺激はその「自然らしさ」を減じ、あたかも作り物であるかのような視覚的印象を有することとなる(「ミニチュア効果」)。予備的な心理実験の結果、画像操作によって画像の自然らしさが有意に低減しても、ベクションに及ぼす影響は限定的なものにとどまるという結果が得られている。次年度以降本格的に検討を開始する実画像を用いた研究においても、本年度実施の予備実験結果を大いに有効活用することが可能である。今後は、より詳細に刺激画像の画像特徴操作を行い、自己運動知覚に影響を及ぼしうる要因を特定することを試みる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載の計画に沿って着実に初年度の研究を推進した。当初検討対象としていた画像特徴の一部(画像解像度等)に関しては、予備観察の結果自己運動知覚に及ぼす効果が相当小さいことが確認され、検討の優先順位を下げている。視覚オブジェクトと背景との輝度コントラストの効果に関しては、これまで無視されてきた色彩情報の動的な変化がベクションに大きな影響を及ぼすなど、今年度構築した実験系において興味深い結果が得られつつある。また、視覚刺激の空間周波数の効果に関しては、先行研究を支持する結果が得られている(視野周辺部において高空間周波数の効果が低減する)。 初次年度計画していた実画像を用いたベクション実験に関しても、本年度試行的に着手することができた。しかしながら、本研究計画で目的とする実風景動画像が自己運動知覚に及ぼす影響を検討するためには、実時間で動画像処理(画像特徴量操作)を可能とするシステムが要求される。次年度計画においてそれを達成し、実画像がベクションに及ぼす影響に関し本格的な検討に着手したい。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度に関しては、風景画像に対する実時間動画像処理を可能とする刺激呈示システムを完成させ、当初予定の通り画像特徴操作を施した自然画像によるベクション実験を推進する。この実験により、自然画像の視覚的印象などの持つ高次の特徴が自己運動知覚に及ぼす影響について検討を行う。 自然画像を用いたベクション実験において検討する視覚刺激要因としては、刺激の色や輝度、空間周波数など、11年度の抽象運動パターンを用いた実験において検討したパラメータに加え、画像の持つ自然性や画像の意味的特徴等、自然画像を用いることによって初めて検討可能となる刺激パラメータを導入する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度の抽象パターンを用いた実験において、ベクションに及ぼす視覚刺激特性の効果を概略把握することができた。しかしながら、一部のパラメータにおいてはその影響を把握するための予備的実験が完了していない部分があり(例えば視覚刺激の空間解像度や空間周波数成分の効果)、自然動画像の実時間画像処理システムの要件定義を完成することとが出来ず、一部実験機器の導入を次年度に繰り越した。引き続きパラメータ決定のための心理実験を継続し、12年度前半期までにはシステム構築を完了可能な状態とする。このような検討により得られた指針に基づき、13、14年度に実施をする本格的な自然動画像を用いた自己運動知覚実験での使用に耐えうる刺激呈示システムを構築する。そのために、今年度交付研究費の次年度使用部分と翌年度意向に請求する研究費とをあわせ、画像処理ボード等の実験機器の導入に充てる。 その他、次年度研究計画においては、心理実験に関わる被験者謝金、研究成果の中間報告のための国内外学会への参加経費などとして研究費を使用する予定である。
|