研究課題/領域番号 |
23530963
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研究機関 | 日本福祉大学 |
研究代表者 |
中村 信次 日本福祉大学, 子ども発達学部, 教授 (30351084)
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キーワード | 運動知覚 / 自己運動 / 画像特徴 |
研究概要 |
平成24年度は、前年度の取り組みを継続し、視覚誘導性自己運動知覚に及ぼす画像特徴操作の効果に関する心理実験を継続した。今年度は、主に移動カメラにより撮影された自然動画像を視覚刺激として用い、それに対する画像操作付与を行った際の観察者の自己運動知覚の様態を分析する手法を用いて検討を進めた。昨年度からの継続案件として、自然動画像に対する色彩操作(彩度強調)、空間周波数操作(天地の“ぼかし”)による画像の「ミニチュア感」操作が自己運動知覚に及ぼす影響の検討を行ったが、画像特徴自身の影響による自己運動促進と、ミニチュア感増強に伴う自己運動抑制とが相殺され、結果としてこの種の画像操作により自己運動知覚に顕著な影響は生じないことが再確認された。今後、画像特徴としての色彩操作が自己運動知覚に及ぼす影響を、さらに詳細に検討することとする。その際には、画像特徴量操作の影響と、それに伴う画像印象の変化の影響とを分離可能な形での実験実施を行わなければならない。また、24年度においては、画像操作の一形態として、刺激動画像の時間的・動的特徴の分析にも着手し、観察者の自己運動を誘導可能な最小限の視覚刺激要件の特定を試みる心理実験を実施した。4フレームもしくは2フレームの静止画像を最適化された時間間隔で順次提示することにより誘発される錯視的運動知覚(4 stroke apparent motion, 2 stroke apparent motion)により、十分な強度の自己運動知覚が誘導されうることを見出している。画像の静的特徴の変化と動的特徴の変化の影響を総合的に検討可能な実験を今後行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画の最終フェーズにおいて、撮影された動画像に対する画像特徴量変換を実時間で実施し、それを観察者に提示することにより、画像特徴が観察者の自己運動知覚に及ぼす影響を総合的に検討することを計画していたが、実時間画像処理システムの構築が技術的に困難であることが判明した。そこで、あらかじめ多様な自然動画像を撮影・ストックしておき、それらに対しオフラインで画像特徴量変換を行い、それを心理実験の視覚刺激として供するという研究計画の変更を行った。撮影する動画像や適用する画像処理の種類を豊富に確保することにより、研究目的の達成に影響を及ぼさない形での研究方法の変更を期待できる。この変更に伴い、若干の時間的遅延が発生することが予期されるが、今年度の研究推進により吸収可能であるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、上記の研究計画の変更に伴う遅延を挽回した上で、当初計画の通り、画像特徴操作に関する心理実験を継続する。さらに、研究計画の最終年度として、これまでの心理実験の結果に総合し、視覚運動に基づく自己運動情報算出に関する心理学的モデルの構築を行う。視覚刺激の画像的特徴を包括的に取り扱うことが可能であり、観察者が経験する自己運動知覚を定量的に予測することの可能なモデルを開発する。モデルの内的中間表象により、自己運動知覚に影響を及ぼす視覚刺激の画像的特徴を統一的に記述することの可能な概念を導出することを試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画においては、自然動画像に対する画像特徴量操作をリアルタイムで行い、そのベクションに及ぼす影響を検討する実験を今年度実施する予定であった。しかしながら、前述の理由によりそれが遂行できず、画像処理システム構築や心理実験実施に要する経費が一部未執行となり、次年度に繰り越すこととなった。次年度においては、刺激動画像作成方式の変更に伴い、心理実験に用いる刺激提示システムに一部改修が必要となるが、繰り越した経費を充当することによりそれを実施する。可能な限り現行システムのコンポーネントが利用可能な形での改変を追求し、必要経費を低減することを試みる。また、次年度においては、視覚誘導性自己運動知覚経験中の観察者の脳内活動計測を行い、構築する心理モデルの妥当性検討を行うことを計画している。生理計測のための実験機器のリース費用として一定額の経費が発生する。その他、次年度研究計画においては、心理実験にかかわる実験参加者謝金、研究成果報告のための国内外学会への参加経費などとして研究費を使用する予定である。
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