平成26年度は、研究計画の最終年度として、視覚誘導性自己運動知覚に及ぼす画像特徴の影響を分析する心理実験を継続するとともに、これまでの研究成果の取りまとめを行った。これまでの心理実験においては、水平方向への直線自己運動(リニアベクション)のみ対象としてきたが、視線方向を軸とする自己回転運動知覚(ロールベクション)をも分析対象とすることにより、自己運動知覚と画像特徴との関係をより詳細に検討することを試みた。具体的には、上下方向に強い極性(ポラリティ)を有する視覚要素(今回の分析では人の顔画像を用いた)を誘導刺激に導入することにより、視覚刺激の物理的な回転運動と画像の意味とが矛盾する刺激状況を作出し、その際の自己回転運動知覚強度を分析した。心理実験の結果、1)視覚刺激の回転運動が自然な自己運動状況の網膜像流動と対応する状況においてより強いロールベクションが誘導されること、2)視覚刺激の大域的回転とは独立に刺激要素を局所的に回転させることにより、ロールベクションが阻害されること、3)局所回転によるベクション阻害は、刺激要素が上下方向に極性を有する視覚対象であった場合には、特定の意味を持たない視覚対象を用いた場合よりも、顕著なものとなること、などを見出した。 4か年の研究により、視覚誘導性自己運動知覚の実験心理学的研究において無視されてきた誘導刺激の画像特徴、さらにはそれに基づく刺激画像に対する印象やその意味が、ベクション知覚に非常に大きな影響を及ぼすことを体系的に明らかにすることができた。これまで比較的低次の心理現象であり、視覚刺激の時空間特性のみに依存すると考えられてきた視覚誘導性自己運動知覚が、印象判断や意味理解といった高次の心的過程の影響を受けることを示す結果であり、今後のベクション研究における新たな研究方向の在り方を示すことができた。
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