研究課題/領域番号 |
23530964
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
御領 謙 京都女子大学, 発達教育学部, 教授 (70008960)
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研究分担者 |
木村 英司 千葉大学, 文学部, 教授 (80214865)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 視野闘争 / 文字認知 / 顔認知 / 要約的意味理解 |
研究概要 |
研究目的 本年度の研究目的は 1)視野闘争研究のパラダイムの一つである、onset rivalry 法を用いて、両眼に提示される二つの異刺激間の一方が選択的に知覚されるメカニズムを、文字刺激や顔写真を用いた実験により探ることと、2)数多くの記号がランダムに存在する画面を一目見てその画面から意味を抽出する要約的意味理解の過程に関し、記号として数字、漢数字、単語などを用いて検討することであり、以下の成果を得た。1)の成果:両眼網膜の凝視点を中心とする対応部に、異なる刺激を闘争刺激として数十から数百ミリ 秒提示すると、典型的には両刺激のどちらか一方が選択的に知覚される。筆者らは、闘争刺激に先行してどちらか一方の刺激を、片眼または両眼に十分な時間(e.g. 1sec)提示すると、闘争時に見えの変調が生じ、先行提示されなかった新刺激を知覚する確率が際立って高くなることを、色刺激、幾何学パターン、漢字、ひらがなを用いて明らかにして来た。 今回は顔写真を刺激とし、刺激の正立・倒立要因について検討した。先行刺激が正立顏の場合は、文字刺激の場合と同様に、正立・倒立を問わす、先行提示されなかった方の顏(新顔) の選択的知覚が他の見え方を圧倒した。しかし先行刺激が倒立の場合には、闘争刺激の方位にしたがって傾向は異なり、倒立の新顏より正立の旧顏(先行提示された)の選択率が顕 著に高い値を示した。先行刺激の方位と形態が共に闘争刺激の見えの変調に寄与している といえる。文字についても同様の実験を継続中である。2)の成果:9語の情動語をランダムに配置し、200ms提示した。この提示時間ではすべての語を認知する余裕はない。それでも被験者はこのような画面から、その画面に含まれる情動的に快な語と不快な語の比率の違いを認知できることを実験的に明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に記したように、研究目的に上げた2つの目的のどちらについても、国際学会に発表するに値する明確な結果を得ており、今も継続的に実験を行っている。24年度においても、実験の精度をさらに上げ、計画の残りの部分を実行して行きたい。本年度のヨーロッパ知覚会議に2件の報告にまとめ、発表を申請済みである。どちらの成果も我々の検索範囲において今までに得られたことのない貴重な成果であると考えられる。次年度以降の成果をまって、できるだけ早急に数編の論文として公表する価値のある研究となるものと予想できる。反省点をいえば、申請書に上げた種々の実験条件の取り上げ方において、必ずしも申請書通りとはなっておらず、今年度予定のものを次年度送りにした部分がある。具体的には目的1では文字刺激条件の実験の完成をまたずに、顔刺激を用いた実験を先に行ったし、目的2でも単独の文字刺激を用いた一連の実験を完結させること無く、単語レベルの実験を先行させたこと等である。これらは共に、学会等における議論などを通じて、より緊急性の高さの評価を変えたためである。また、当初計画になかったが、機会を得て文字認知機能の加齢効果に関する研究にも着手することが出来た。この成果は本研究の最終目的に取って貴重なデータを提供することになると予想される。何れにしても、これらの変更は次年度以降において調整を計ることによって、当初の目標通りの成果をあげることに支障を来すものではない。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の積み残し分を早急に実行するとともに、交付申請書の24年度計画を実施に移す。具体的には以下の通りである。【課題2】23年度の課題1に引き続き、形態、音韻ないしは意味的に関連する文字を先行提示することにより見えの変調現象が発生しうるかを中心に検討する。23年度に購入した機器の整備を計り、より一層精度を高め、能率的に実験を実施することとする。御領担当【課題4】23年度の課題3の空間的な意味要約課題に関しても実験的検討をさらに進めるが一方でそれらとは対照的に、文字刺激の急速系列提示を用いてある時間スパンにわたって提示された文字・数字刺激の時間的要約処理を検討し、その特性を空間課題において明らかとなった特性と比較する。文章の速読における意味処理過程の解明につながる。木村担当また、高齢者の実験参加者を募り、本計画の一般性を高めるとともに認知変容の問題にも貢献する予定である。御領担当
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度はほぼ予定通りに予算を満額消費した。24年度も出来る限り交付申請書の計画通りに予算を消費したい。24年度からは23年度の研究成果をヨーロッパ知覚会議で2件にわけて発表する予定である。その他研究打ち合わせのための費用もあわせて旅費を計上している。また、今年度は大量の被験者を集めた実験になる予定であり、そのための実験準備や実験実施の補助、データ解析補助等の業務が必要となる。そのために必要な謝金が計上されている。23年年度に購入した刺激発生装置bit♯の機能を十全に発揮するためのコンピュータをはじめとする周辺機器の整備に物品購入費を充てる予定である。ただし高齢者を対象とする実験を実施する場合に、被験者に対する謝金が交付申請書の予算額をオーバーする可能性がある。その場合には物品費の一部をまわす事態も考えられる。この部分は実験の精度との兼ね合いで現実的合理的な判断を心がけながら計画を実行して行きたい。
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