交付申請書に記載した「研究の目的」は、音楽構造の階層化モデルを構築し、ヒト認知に基づいた音楽階層構造を体系化することである。音楽の表現力および情報伝達力を調べるためには、その構造自体を体系的に分析するモデルの構築が非常に重要である。本研究では、西洋調性音楽の統語構造に着目した。言語の句構造文法のひとつである文脈自由文法(context free grammar: CFG)に音楽の機能和声の終止度を導入することにより、新しい音楽構造の階層化モデルの構築を提案した。最終年度である本年度までの研究期間において、終止度認識の心理学的分析による音楽階層構造モデル構築およびその認識時の脳活動の計測と分析を行った。 昨年度までの研究期間において、聴取者に連続する機能和声に埋め込まれた終止形認識課題を呈示し、それぞれの終止形の構造と心理的終止感の相関を分析し終止度の数値化を行った。さらにこの結果をもとに、音楽階層構造モデルの原型に具体的な終止構造を組み入れたモデルの構築を行った。本年度の研究期間において、構築されたモデルを基に、終止度の異なる終止構造を込み込んだ音楽課題を作成し、その聴取時の行動実験および脳活動の計測結果の分析を行い、モデルの検証を行った。その結果、終止構造の和音連結パターンと旋律との組み合わせにより異なる終止度をもつ終止構造を構築できること、より強い終止度をもつ終止構造により、音列がはっきりと区切られ、より大きな音列のまとまりを形成する可能性が高いことが明らかとなった。さらに、より強い終止度を持つ終止構造聴取時には、終止構造を完成し音列のまとまりを構成するための最終和音提示を期待する脳活動が現れることを明らかとした。この研究成果をまとめた論文はNeuroReort誌に受理され2014年に出版される予定である。
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