研究課題/領域番号 |
23530975
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
岡部 善平 小樽商科大学, 商学部, 教授 (30344550)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 高等学校 / 専門教育・職業教育 / カリキュラム / 有意性 / 高等教育 |
研究概要 |
本研究の目的は、高等学校での専門教育・職業教育が学習者の進路形成に対してもつ意義について、とくに専門学科から大学への進学に焦点を当て、実証的に検討することにある。平成23年度に実施した研究の概要および成果は、以下の通りである。 第一に、平成23年2~3月に実施した予備調査の再分析を行い、その結果に基づき第一次調査を実施した。本調査では、専門学科2校、普通科1校(予備調査のみ)を対象に、生徒がカリキュラムのどの側面に有意性(意義)を見出しているかについて質問紙調査を行った。その結果、(1)専門学科の生徒は専門的な内容の学習や資格の取得といった点について専門教育の有意性を認識していること、(2)一方で、現在学んでいることと関連した分野への大学進学や現在学んでいることを深化させる分野への進学といった「現在との連続性」についての認識が、普通科と比較したとき有意に低いことが明らかになった。これは、専門学科から大学等への進学希望者が進路展望とは異なる観点から専門教育を意義づけている可能性を示唆している。この結果に基づき、平成23年11~12月、同一対象校での追跡調査を実施し、生徒の有意性の認識の時系列的な変化を検討した。現在分析中であるが、これまでのところ1年次から2年次に進級する際に専門教育に対する有意性の認識が低下するという結果が析出されている。 第二に、進学型専門高校における専門教育・職業教育の実施状況について、事例校での授業見学および教員への聞き取り調査を実施した。調査実施時期は平成23年11月および12月、対象校は4校で、北海道地区2校、関東地区2校、いずれも商業科を主体とする高校であった。調査から、(1)英語教育およびキャリア教育の重視、資格取得の非強制、大学等との連携を通して専門教育の活性化を図っていること、(2)推薦入試の利用を中心とした進学指導体制をとっていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究の目的」の達成度について「やや遅れている」と自己評価する理由は、以下の通りである。 第一に、第一次調査の分析が完了していないことから、専門教育・職業教育に対する高校生の有意性の認識の時系列的な変化を解明できていない。「研究実績の概要」でも述べたように、調査の集計結果では、1年次から2年次に進む際に専門教育に対する生徒の有意性の認識が低下する傾向が見られるが、さらに踏み込んだ分析が必要となる。とくに、学年の進行に伴う進路展望の変化が専門教育に関する生徒の有意性の認識にいかなる作用を及ぼしているのかについては、回帰分析等の結果を踏まえた詳細な検討が求められる。また、生徒および教員を対象とした聞き取り調査等による質的データの収集もこれからの課題である。 第二に、「専門教育・職業教育の有意性の認識過程」に関する理論的枠組の構築について、理論研究の範囲を拡張しなければならない。これまで、主に「職業教育・職業訓練から高等教育への移行」に焦点を当てた日英の先行研究を検討してきたが、これに加えて教育社会学、カリキュラム研究の分野で進められている「普通教育と職業教育の分化」に関する諸研究の批判的検討が求められる。というもの、専門学科・職業学科からの大学進学は、従来の後期中等教育にみられた普通教育=進学、職業教育=就職といった図式の再構成を表しているからである。普通教育と職業教育の関係性の変化を把握するためには、教育知識の分化と統合に関する踏み込んだ議論が必要になるだろう。このような理論研究の深化が、これからの課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
上記「現在までの達成度」の現状を踏まえ、今後は(1)事例校での調査の継続と生徒の時系列的な変化の分析、(2)調査の分析結果および理論的検討に基づく「専門・職業教育の有意性の認識過程モデル」の構築と精緻化の2つの研究を推進する必要がある。その方策は以下の通りである。 第一に、事例校での調査の継続と生徒の時系列的な変化の分析についてである。専門学科においては、学年が進行するにつれて教育課程に占める専門科目・職業科目の割合が増加する。そのため、比較的少数の専門・職業科目のみを履修する1年次生と、多くの時間を専門・職業科目に費やす2・3年次生とでは、有意性の認識に変化が生じることが推測される。そこで今後は、事例校での調査を継続し、専門・職業教育に関する生徒の有意性の認識がどのように変化するのかについて平成23年度の調査結果と比較分析する。その分析を通して、生徒の専門・職業科目への適応のプロセスを時系列的に検討する。また、平成24~25年度にかけては、学習指導要領の改訂に伴う教育課程の改編が本研究のいずれの事例校においても予定されている。こうした教育課程の外的な枠組みの変化が、生徒の有意性の認識に及ぼす作用についても検討を進める。 第二に、「専門・職業教育の有意性の認識過程モデル」の構築と精緻化については、今年度と同様に職業教育・職業訓練から高等教育への移行に焦点を当てた理論的・実証的研究の文献収集および読み込みを行う。今後はそれに加えて、教育コード理論、状況的学習理論等の分析枠組を援用しつつ、「普通教育と職業教育の分化」に関する先行研究の批判的検討を行う。この検討を通して、普通教育と専門・職業教育との関係の変化が生徒の有意性の認識に及ぼす作用に関する分析枠組を構築し、「専門・職業教育の有意性の認識過程モデル」の理論的な補完を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用する予定の研究費について、第一に、(1)後期中等教育における専門教育・職業教育の編成、(2)学校から社会への移行システム、(3)高校と大学の接続と移行システムに関する国内外の研究動向の情報を入手するために、上記3分野の関連図書および資料を購入する。これに加えて、(4)「普通教育と職業教育の分化」に関する先行研究の検討を行うための学校社会学および知識社会学の関係図書および資料、(5)普通教育と専門教育・職業教育との関係の変化が生徒の認識に及ぼす作用を検討するための教育コード理論および状況的認知理論関連文献および資料を、それぞれ購入しなければならない。 消耗品費については、質問紙調査結果の解析をするための統計処理ソフトの更新と購入が不可欠である。これは、研究期間初年度に新規購入したパソコンにインストールするための追加購入となるが、昨年度研究費の繰越金の一部を当該ソフトの購入にあてることとする。また、質問紙の作成、研究成果の公開に関わる消耗品として、プリンタ用紙、プリンタ用トナーカートリッジを購入する。 国内旅費については、関東地区の調査対象校において生徒と教職員への聞き取り調査を実施するために、小樽―東京間の国内旅費の予算を計上した。聞き取り調査については、研究代表者が直接現地を訪問し、生徒の進路意識および専門教育・職業教育への意味づけの内容、教職員の学習指導・進路指導の過程を時系列的に調査するために、年2回分の調査旅費を計上している。 その他、収集した資料等の複写のための複写費、調査概要および調査結果報告書を郵送するための通信費を計上した。
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