研究課題/領域番号 |
23530975
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
岡部 善平 小樽商科大学, 商学部, 教授 (30344550)
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キーワード | 高等学校 / 専門教育・職業教育 / カリキュラム / 有意性 / 高等教育 |
研究概要 |
本研究の目的は、高等学校での専門教育・職業教育が生徒の進路形成に対してもつ意義について、とくに専門学科から大学への進学に焦点を当て、実証的に検討することにある。平成24年度に実施した研究の概要は、以下の通りである。 第一に、平成23年11月に実施した第一次調査の結果と平成23年2月実施の予備調査の結果を組み合わせ、2学年間にわたる経年分析をおこなった。この調査は、専門学科2校を対象に、生徒がカリキュラムのどの側面に有意性(意義)を見いだしているのか、この有意性の認識が生徒の進路展望にどのような影響を及ぼしているのかについて、質問紙による時系列的検討をおこなうものである。主に明らかになったのは以下の点である。 ①就職希望者は専門性の観点からカリキュラムを意味づけており、カリキュラムの職業教育の側面を自らにとって「有意なもの」をして認識している。一方、進学希望者の専門性の認識は、学年が進行するにしたがって低下する傾向にあり、また4大・短大希望者は、進路準備の観点からカリキュラムを意味づけていた。しかし、同じ進学希望であっても、専門学校希望者の進路準備有意性の認識は一貫して低調であった。 ②カリキュラムの専門有意性の認識は生徒の就職希望を高める効果を、進路準備有意性は4大・短大希望を促進する効果をもっていた。一方で、専門有意性は大学進学に対しても一定の効果をもっており、専門有意性を認識している生徒ほど高校での教育内容と関連した分野への進学を希望する傾向を示した。 第二に、上記の分析結果に基づき、平成24年11~12月、事例校における第二次調査を実施した。これによって、同一対象校での予備調査も含めた3年間の時系列的調査が完結することとなる。高校生活を通した生徒の有意性に認識の変化に焦点を当て、現在分析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究の目的」の達成度について「やや遅れている」と自己評価する理由は、以下の通りである。 第一に、質的研究の不足である。本研究の調査は職業教育・専門教育に関する大規模な実態調査ではなく、理論構築のためのデータ収集の意味合いをもつ。こうした意図から、平成23~24年の実証的研究では質問紙を用いた事例校での定量的調査を中心におこなってきた。しかし、継続的な質問紙調査は生徒の認識の形成過程を時系列的に把握するうえで有効である一方、それがどのような社会的文脈において生じるのかについては各学校の進路指導体制と関連づけて定性的に分析しなければならない。したがって、これまでの定量的調査に加えて、生徒および教職員への聞き取り調査およびドキュメントデータの分析などを実施する必要があるだろう。 第二に、主に英米の教育社会学およびカリキュラム研究の分野ですすめられている「普通教育と職業教育の分化」に関する諸研究の整理をおこなわなければならない。研究代表者は、平成24年度の理論的研究の課題として、アカデミックな教育と職業教育との「同等の評価」(parity of esteem)の視点から、「教育知識の分化」に関する諸研究の批判的検討を企図してきた。現在先行研究の収集と読み込みをすすめているが、本研究が目指す「専門・職業教育の有意性の認識過程モデル」の構築との関連づけについては未整理の状態にある。独自の理論的枠組の構築に向けて、現在検討中の諸研究の知見を位置づけ直すことが喫緊の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
上記「現在までの達成度」の現状を踏まえ、今後は①事例校における質的データの収集と分析、②調査の分析結果および理論的検討に基づく「専門・職業教育の有意性の認識過程モデル」の構築と精緻化、の二つの研究をすすめていく必要がある。その方策は以下のとおりである。 第一に、事例校における質的データの収集と分析についてである。現在、第二次調査の結果も含めた3年間の時系列調査を分析中である。この分析結果を調査対象校にフィードバックする過程で、当該高校のカリキュラム編成および進路指導体制の現状と課題についての聞き取りと資料収集の場を設定する。ここで収集される質的データに基づいて、専門教育カリキュラムの有意性に関する生徒の認識がいかなる社会的文脈において形成されるのか、より詳細な検討をおこなう。 第二に、「専門・職業教育の有意性の認識過程モデル」の構築と精緻化については、今年度と同様「普通教育と職業教育の分化」に焦点を当てた理論的・実証的研究の文献収集および読み込みをおこなう。また、主に平成23年度に検討してきた「職業教育・職業訓練から高等教育への移行」研究についても、先行研究の知見を再整理・再検討する。「普通教育と職業教育の分化」と「職業教育から高等教育への移行」の問題は後期中等教育カリキュラム研究において相互に関連する中心的課題であり、この検討を通して、後期中等教育における専門・職業教育の意義を捉え直すための理論的枠組の構築を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用予定の研究費は、物品費(文献購入費)、国内旅費、およびその他(消耗品費)に大別される。 第一に、物品費については、昨年度同様①後期中等教育における専門教育・職業教育の編成、②学校から社会への移行システム、③高校と大学の接続と移行システムに関する国内外の研究動向の情報を入手するための関連図書および資料を購入する。また、本研究を総括する理論枠組の構築に向けて、④「普通教育と職業教育の分化」に関する学校社会学および知識社会学の関係図書・資料、⑤普通教育と専門教育・職業教育との関係の変化が生徒の認識に及ぼす作用を検討するためのカリキュラム研究関連文献・資料を、それぞれ購入しなければならない。 第二に、国内旅費については、関東地区の調査対象校(進学重視型の専門高校)において生徒と教職員への聞き取り調査を実施するために、小樽―東京間の国内旅費の予算を計上した。聞き取り調査については、研究代表者が直接現地を訪問し、生徒の進路意識および専門教育・職業教育への意味づけの内容、教職員の学習指導・進路指導の過程を調査するために、2回分の調査旅費を計上している。また、日本子ども社会学会(平成25年6月29~30日、関西学院大学)において、本研究の成果の一部を発表することとなっている。そのため、小樽―神戸間の国内旅費を計上した。 消耗品費については、研究成果の公開に関わる消耗品として、プリンタ用紙、プリンタ用トナーカートリッジを購入する。 その他、収集した資料等の複写のための複写費、調査概要および調査結果報告書を郵送するための通信費を計上した。
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