本研究の目的は、高校での職業教育が生徒の進路形成に対してもつ意義について、とくに職業学科から高等教育への進学に焦点を当て実証的に検討することにある。平成26年度および研究期間全体を通じた成果の概要は以下の通りである。 第一に、平成22~24年度にかけて実施した時系列調査を総括した。本研究ではこれまで、職業学科2校を対象に、進学希望の生徒が職業教育カリキュラムのどの側面に有意性を見いだしているかについて検討してきた。職業科目への「関心」と、現在の学習内容と進路との「関連性」を一対の軸として4つの「有意性の認識タイプ」を設定し、その規定要因を分析した結果、①「普通科目への関心」が「関心あり、関連性あり」および「関心あり、関連性なし」の認識の形成に寄与していること、②「関心あり、関連性あり」の形成にはさらに「現在の成績」が影響力を及ぼしていることが判明した。ここから、(a)進路との「関連性」を維持するためにはその実現手段としての成績、普通科目への関与が必要であること、(b)上記二つの要件のいずれかが満たされなかった場合、生徒は職業科目への「関心」を進路に結びつけることができない一種のアノミー状態におかれる可能性があることが示唆された。 第二に、以上の結果を踏まえ、またアカデミックな教育と職業教育との「同等の評価」に関する英国での研究を参照し、職業教育カリキュラムの取り得る方向性とその限界を考察した。本研究が提示したのは、①職業教育の普通教育へのシフト、すなわち職業教育に抽象的・原理的な内容をより多く組み込む方向性と、②職業教育において形成される多様な能力を可視化し、積極的に評価していく方向性である。本研究では後者の観点から、ルーブリックを用いたパフォーマンス評価を試みている工業高校の事例分析をおこない、職業的能力の質的評価が生徒の「関連性」の形成に一定の有効性をもつ点を確認した。
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