本研究は、人の思考力形成が本質的特性や関係などを表す抽象語の獲得と使用により支えられるという観点から、学校教育および日常生活で出会う抽象語とそれらへの理解の実態を明らかにし、その獲得可能性を検討することを第1の目的とした。また授業その他の生活場面において抽象語や論理表現語を用いることが、思考力形成の基礎となる可能性について検討することを第2の目的とした。 2011年度より2013年度は、①漢字熟語を手がかりに意味理解度と抽象性との関わりについて検討するため、漢字使用に関する調査情報を収集しながら、抽象語としての吟味を行った。合わせて小学校で用いられている各種教材における高次概念語や論理表現語の出現実態を整理した。②抽象語や科学的語彙などを対象とする教育実践の収集も並行したが、系統的な試みは乏しい現状が確認された。③一方、学校での抽象語の使用実態については、特別支援教育も含めた場面での事例収集を試みた。 だが事例の収集は断片的なものであったため、承認を得て期間を延長し、2014年度は、①日常学校生活場面での主に観察による語使用の収集を継続した。手続き的レベルでの語使用は語理解の容易でない特別支援教育場面でも見られたが、学校場面に特有の生活文化でのみ有効なものかどうかの解明が課題として生じた。②また継続していた教材環境における抽象語・論理語の出現実態の整理を行った。それらの語の理解度には小学生と大学生の程度差はあるが、容易さの段階として説明できる原理的な解明が今後の課題である。 期間全体を経て対象世界の一角を切り取ったものの補助金において未使用分も残る到達点にあるが、児童生徒の理解のあり方についての新たな視点を得たといえる。
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