研究課題/領域番号 |
23530986
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
小林 亜子 埼玉大学, 教養学部, 教授 (90225491)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | フランス革命 / 公教育 / 総裁政府 / 革命戦争 / ライン左岸併合地 / エコール・サントラル |
研究概要 |
本年度は、3 年間の研究期間で行う下記の調査・研究について、初年度に行っておく必要のある史料調査・研究を行った。すなわち、本研究では、フランス革命期に、革命戦争によりフランス領となった「併合地」のなかで、最も早い段階からフランスの「公教育組織法」が施行された「ライン左岸併合地」(現在のベルギー、オランダ、ルクセンブルク、ドイツ北西部)における公教育の実態を、フランス側の一次史料のみならず、当該地域の一次史料を用いて解明し、革命期公教育政策のもっていた啓蒙期コスモポリタニズムの継承という側面、19世紀ナショナリズムの先駆という側面、またそのいずれでもない革命期固有の特徴を検証することをめざしており、本年度は、「ライン左岸併合地」に当時設けられた13の県、すなわち、現在のドイツ北西部のライン左岸に設けられた4つの県、ルクセンブルクに設けられた県、オランダ南東部とベルギーの南部・東部に設けられていた4つの県、ベルギーの北部・西部に設けられていた4つの県について、それぞれフランス側の公教育関係の史料に重点をおいて調査・収集を行った。 とくに、これらの地域は、フランスの公教育法制の施行に積極的であったことがわかっているので、当時設立された上記の各県の都市のエコール・サントラルに関する文書も含めた関係史料を、フランス国立古文書館所蔵のフランス革命期「併合地」公教育関係史料およびフランス国立図書館所蔵「併合地」公教育関係史料について、できるかぎり網羅的に調査した。また、収集した史料について分析をすすめ、これまでに調査・研究を終えている現在のスイス西部にあたる革命期の併合地での公教育施行状況との比較・検討を行った。 こうした分析をとおして、従来、理論面のみの研究にとどまっていた革命期の公教育について、「併合地」も視野に入れて、理論と実態の両面から、その全容の一部が明らかになってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の研究計画について、下記の二つの事情により、部分的に変更し、研究をすすめることとなった。(1)フランス側の史料収集にあたり、最も重要な調査対象地であるフランス国立古文書館が、平成24年末より文書館の移転準備に伴い、セクションごとに、順次、史料閲覧停止期間に入るため、本研究の対象史料について、移転前後の数年間は史料閲覧が困難となることが判明した。このため、平成23年度の海外史料調査は、研究申請時の予定を部分的に変更し、フランス国立古文書館所蔵の革命期「併合地」関係の史料調査・収集を最優先とし、その分析にも着手した。(2)次年度の平成24年10月から本務校で半年間の長期研修を取得し本科学研究費による研究に専念できることとなった。したがって、2週間以上の調査を集中的に行う必要のある、申請時の計画において予定していた、ドイツ北西部のライン左岸に設けられた4つの県にあたる地域と現在のルクセンブルクに設けられた県の文書館等での現地調査は、フランス側史料の分析成果も生かしつつ、次年度(平成24年度)に行うこととした。これに伴い、当該調査に予定していた研究費を、次年度に繰り越し、使用することとした。 研究計画の達成状況としては、(1)(2)の理由から、今年度(平成23年度)は、フランス国立古文書館所蔵の革命期「併合地」関係の史料について、網羅的な収集を最優先し、これについては、ほぼ達成しただけでなく、次年度に行う予定であった収集史料の分析・検討についても前倒しで行い、合わせて、次年度以降行うこととしたドイツ、ベルギーでの現地史料調査についてのフランス側史料に基づく仮説的見取り図も作成することができたので、おおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
フランス側の史料となる、フランス国立古文書館所蔵「併合地」公教育関係史料については、ドイツ、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクでの現地史料調査をふまえて、研究の完成年度(平成25年度)にも再調査する予定であったが、「現在までの達成度」の理由のところにも記述したとおり、フランス国立古文書館の移転に伴う史料の閲覧停止期間の関係で、平成25年度には行うことができない。このため、今年度収集したフランス国立古文書館所蔵「併合地」公教育関係史料の分析を急ぎ、フランス側について再調査の必要な史料がある場合は、前倒しで平成24年中に行っておく必要がある。 幸い、次年度の平成24年10月から本務校で半年間の長期研修を取得し本科学研究費による研究に専念できることとなったので、ドイツ北西部のライン左岸に設けられた4つの県にあたる地域と現在のルクセンブルクに設けられた県を中心に、平成23年度に行えなかった現地での公教育関係の史料について調査・収集をすすめるとともに、平成24年度についての当初の予定どおり、オランダ南東部とベルギーの南部・東部に当時設けられていた4つの県についても、調査を行う。 さらに、長期研修期間を生かして、フランス国立古文書館所蔵「併合地」公教育関係史料と、ドイツ北西部、オランダ、ベルギーおよびルクセンブルクの文書館で収集した史料とを関連付けて、全体の目録を作成できるようデータ・ベース化に着手する。 フランス国外の史料も含めた未刊行史料に基づく総裁政府期「ライン左岸併合地」の公教育の実態の解明は、フランスの研究者によっても明らかにされていなかった貴重な成果をもたらす見通しである。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、フランス革命期「ライン左岸併合地」に設けられた13の県のうち、現在のドイツ北西部のライン左岸に設けられた4つの県にあたる地域と現在のルクセンブルクに設けられた県を中心に、平成23年度に行えなかった現地での公教育関係の史料を調査・収集することに重点をおく。また、当初の予定どおり、オランダ南東部とベルギーの南部・東部に当時設けられていた4 つの県についても、調査を行う。 ドイツ北西部とルクセンブルクの「併合地」時代の公教育関係史料収集については、とくに、ドイツのケルン、マインツなどフランス語圏から遠い地域でのフランス語文書の調査の場合、当該文書館員がどの程度フランス革命期併合地時代のフランス語文書に精通しているかによって、調査の進展が遅れる可能性があるので、ドイツ語圏での海外調査は、複数回行う予定である。 また、今年度の調査で、革命戦争と「併合地」に関係する刊行史料がフランス国立図書館の貴重書部門に存在することが確認できたので、これらについても、詳しい調査を行いマイクロフィルム(あるいはPDF )化を申請し入手する。さらに、ドイツ、ベルギー等の当時の「併合地」側の調査から、フランス側、すなわちフランス国立古文書館所蔵の「併合地」の公教育関係の史料についても、補完すべき史料の存在が明らかになるので、その収集も行う。これらの収集史料の分析にも着手する。 本研究での主たる史料は大部分が手稿史料であり、近年はデジタルカメラでの撮影が認められているものが多いが、フランス国立図書館の貴重書など、マイクロフィルムや別の媒体で入手するものがあるので、手稿史料と相互に比較し、読解するために、均質なメディアとして整理を行う。このため、必要な機器を購入し、研究補助者も用いて、スキャナによる読み込み等でデジタル化して、関係史料全体の総合的なデータ・ベース化を行う。
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