研究課題/領域番号 |
23530986
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
小林 亜子 埼玉大学, 教養学部, 教授 (90225491)
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キーワード | フランス革命 / 公教育 / 総裁政府 / 革命戦争 / ライン左岸併合地 / エコール・サントラル |
研究概要 |
本研究は、フランス革命期に革命戦争によりフランス領となった併合地のなかで、最も早い段階からフランスの「公教育組織法」が施行された「ライン左岸併合地」(現在のベルギー、オランダ、ルクセンブルク、ドイツ北西部)における公教育の実態を、フランス側の一次史料のみならず、当該地域の一次史料を用いて解明し、従来、理論面のみの研究にとどまっていた革命期の公教育について、併合地も視野に入れて、理論と実態の両面から全容を明らかにしようとするものである。 総裁政府期の併合地における公教育の施行と受容の実態については、フランスにおいても、ドイツ、ベルギーなどの併合地が樹立されていた地域においても、研究が行われていない。革命後初の体系的公教育法である公教育組織法(1795年)は、併合地にも施行されていたが、フランスにおいてもこの時期の公教育に関する刊行史料が存在しないために、併合地の公教育の施行状況については、未解明のままとなっていた。そこで本研究ではライン左岸併合地の公教育関係の一次史料の収集を重視し、その分析を行なってきた。 本年度は、これまで収集したライン左岸併合地の公教育関係の史料について、併合地に当時設けられた行政区分(県)に基づいてデータベース化し、各地域の文化的特徴や併合の背景をふまえつつ、分析を行なった。また併合地の各県に創設されたエコール・サントラルについても、現在のベルギーにあたる地域については、学校の履修規定や講義概要、学生の氏名、出身地域、履修科目、科目ごとの褒賞受賞学生のリストなど貴重な史料が残されていたことがわかり、こうした史料の分析もすすめた。 その結果、従来の研究では解明されていなかった、当時の併合地の公教育施行状況、併合地の公教育における具体的な教授内容や教育の対象となった人々、またそれぞれの地域による公教育の受容のされ方の特徴について明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
革命後半期の総裁政府期においては、公教育組織法(1795年)の実施が本格化し、革命戦争による併合地にも施行されていたが、この時期については刊行史料が存在せず史料の残存状況も明らかでなかったため、こうした史料上の問題は、併合地・姉妹共和国における公教育についても研究の未開拓状況をもたらしてきた。 本研究では、ライン左岸併合地における公教育組織法の施行状況について一次史料の収集・分析につとめ、現在のベルギーにあたる地域については、一次史料の分析を終え、総裁政府期の公教育について、従来の研究が法令や通達の分析から描き出してきた仮説、すなわち、1795年に採択された憲法の公教育条項および公教育組織法は、法令上の規定にとどまり、施行も成果もみられなかったという通説に対して、これらの法は、実際に併合地でも施行され、法制に基づく教育機関で教育に携わる教授陣や教育を受ける学生たちを生み出していたこと、さらに、法からはわからなかった県ごとの裁量の余地についても、それぞれの県が公教育法を基本としつつも、県ごとの特徴に沿った規定を定めていたことを解明できた。 本研究について、国内では京都大学で行なわれた関西フランス史研究会で報告し、成果の重要性を評価していただくことができた。 国際的な研究という点でも、現在のフランス革命史研究における併合地や姉妹共和国の研究状況について、フランス革命史研究所所長であるピエール・セルナ教授(パリ第一大学教授)らと情報交換を続けており、本研究による 研究成果を高く評価していただくことができた。その結果、セルナ教授らと昨年度から準備をすすめてきた平成26年にフランスで開催されるフランス革命史研究の国際シンポジウムに、報告者として招聘されることが正式に決定した。 こうした理由から、本研究は、国際的な水準に達しているものとの評価を得て、順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
フランス革命期「ライン左岸併合地」の公教育施行過程について、フランス国立古文書館の移転に備えてフランス側史料の収集・分析を前倒しですすめてきた成果として、ライン左岸併合地に関するフランス側の史料収集・分析は、ほぼ終えて、公教育実施状況の地域による差異(積極的に施行したとみられる地域と消極的であったとみられる地域が存在すること)が明らかになりつつあるので、この成果をふまえつつ、ライン左岸の当時の併合地にあたる地域での調査・史料収集を行う。 「公教育組織法」の施行に積極的であった現在のベルギーにあたる地域およびドイツのライン左岸南部地域、スイス北西部地域については、当該地域の文書館だけではなく、現在も教育機関として存続している当時設立された公教育関係の施設について、調査・史料収集を行なう。また、公教育組織法の施行に消極的であったとみられる地域(現在のドイツのライン左岸中部地域など)についても、当時の教育状況の実態を解明するための現地史料の収集につとめる。 当該地域が公教育組織法の施行に積極的、あるいは消極的であった歴史的背景を分析するため、日本国内に所蔵されていない当該地域の地方史の史料集やモノグラフについて、フランス、ベルギー、ドイツの文書館等での史料収集につとめ、革命前のフランスとの関係や啓蒙思想の広まりといった点にも注意を払いつつ、革命期ライン左岸併合地の公教育施行状況を検討する。 研究成果について、国内では一橋大学で行なわれるフランス革命研究会で報告するとともに、国際的には、次年度に招聘されているフランス革命史研究の国際シンポジウムでの報告に向けて成果をまとめ、欧文化する。また、データベース化をすすめている革命期併合地関係史料についても、革命史研究所を中心に(セルナ教授の協力のもと)関係各国の文書館とも連携して、国際的な史料データベース化へと発展させていくこととする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は、フランス革命期の「ライン左岸併合地」に関する史料調査を重要な柱としているが、本年度に予定していた海外での史料調査について、年度途中で病気を発症したため、調査先の研究者とも連絡をとりつつ、調査を一部延期し、残りの調査は、体調の回復を待って行うこととした。幸い、体調が回復し海外渡航が可能となったので、先方の研究者と打ち合わせを重ね、次年度に史料調査を行うこととなったため、未使用額が生じた。 上記の理由により、革命期の「ライン左岸併合地」に関する史料調査を終えていない地域について、先方の研究者とも相談して、現地での調査予定の再調整を行い、次年度に、海外調査を実施することとし、合わせて、次年度にフランスで開催される国際シンポジウムでの報告が決定したので、収集史料の総合的な分析と、研究成果の国際発信を行うため、未使用額は、これらの経費にあてることとしたい。
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