研究課題/領域番号 |
23531015
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
野々村 淑子 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (70301330)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 児童救済 / 孤児 / 貧困児 / 家族 / 親役割 / 養育 / 社会関係 / 初期近代英国 |
研究概要 |
本研究は、イングランド最古の孤児院クライスト・ホスピタル(以下CH)の入所や処遇、運営の精査により、孤児・貧困児・浮浪児に対する社会の人々のまなざし、対応の仕方を通じた親、家族の像を解明することを目指している。今年度は、ロンドン、ギルドホール・ライブラリーにおける史料調査を行い、「16世紀中葉ロンドンの孤児・貧困児救済-クライスト・ホスピタル(Christ's Hospital)初期記録より-」(『九州大学大学院教育学研究紀要』第14号(通巻第57集)2011年、125-140ページ)を研究成果として公表した。 英国救貧政策において、子どもの養育、扶養の責任主体として家族という単位が注目され、自然法的家族観と結びついた法制度、社会制度を成立させていったことについては既に指摘されている。CH最初期の受付簿からは、救貧法前史の時期に寄る辺なき子どもたちが、教区の貴族や紳士、役人、司祭、修道士などによってCHの保護対象とされたこと(院内救済および院外救済)、そして養父母(時期や形態は様々)、徒弟引受人などとしてその養育を担った人々の存在が確認できた。 救済の対象、形も様々であり、孤児、貧困児といった区分も曖昧であった。院外給付金、あるいはCHへの入所は、実親と養親双方に認められ、処遇の差は見られない。また、CHも含め様々な養親宅、徒弟奉公先、そして実親宅を往復した記録からも、実親宅が特別に差異化されているわけではない。貧しい子どもの養育の周りに、親、家族を超えた多くの関係性、慈善が存在していた。同時に、CHによる救済のほぼ半数を孤児・棄児・浮浪児の街での一斉救済が占めており、救貧法の軸となる浮浪者・物乞い一斉収監、怠惰を罰し勤勉を教化する動きに位置づけられる。本年度はCH最初期の、子どもの生命をめぐる配慮の発端とそれを支えた社会関係のありようの一端を解明することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初期近代のクライスト・ホスピタル関係史料は非常に古く、複写はもちろん不可能であり、写真撮影も綴じ部分が劣化しており、また破損部分も多いので大変に時間がかかってしまったことが最大の原因である。 限られた時間(滞在期間とギルドホールライブラリー開館時間)のなかで、できる限りの作業を行ったが、当初の予定通りにはいかなかった。 なおかつ、当然のことだが、近代英語ではなく、手稿のため、文字の判読も困難であり、史料解読、分析にも時間を要していることは確かである。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きギルドホールライブラリーでの史料収集、撮影、分析を進める。以下、申請書に記載した計画に添って述べる。(1)CHの児童受入、管理、会計記録、運営についての決議事項、審議過程、実行経緯については、議事録に確認することができる。最初期の受入簿のみ分析を行ったが、引き続き解読を進める。(2)乳母委託、徒弟委託については史料を確認することができ、一部撮影を行ったのみである。引き続き撮影、および解読、分析を進める。(3)入所中の養育、教育内容、退所後の生活状況については、受付簿に書かれた以上の史料を発見できていない。引き続き渉猟に努力する。(4)家族との連絡、交信の記録については、全く確認できていない。引き続き探索につとめると共に、直接的史料ではなくても、家族の有りようを確認できるような史料を探す。
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次年度の研究費の使用計画 |
ロンドンへの往復旅費、マイクロフィルム等の複写印刷など、史料収集に関わる経費を使用する予定である。また、史料整理の人件費も計上済みである。 併せて、初期近代英国史研究、児童救済、児童保護、児童救済史研究、家族史、女性史、社会史研究、医療史研究など、CH史に関わる諸研究の動向把握のために、関係書籍費の使用を計画している。
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