本研究は、17世紀ロンドンに設立されたイングランド最古とされる孤児院(貧困児救済、教育施設)であるクライスト・ホスピタルの受入や退所の手続き、養育、教育、職業訓練など、その活動実態を通して、16世紀半ばより17世紀にかけての子どもの生命、生活への配慮、それに関わる社会関係、特に家族の再編成過程解明を目的としたものである。 受付簿は初期のものが公開されており、限定的ながら近世ロンドンにおける子ども救済の経緯と実態をみることができた。養親による養育や設立組織の広がりは、この施設の救済が、浮浪者・物乞いの一斉収監の一環であると同時に、この子どもの生への配慮、管理成立のプロセスとして見てとることができよう。 本年度は、このような初期の様相を踏まえたうえで、さらに理事会議事録と共に、徒弟派遣や、乳母委託などの史料の解読、分析を試みた。非常に古い史料のため、状態的に判読が困難で時間のかかるものである上に、それぞれにおいて史料残存時期が異なっており、その分析が難しく、一年間での研究成果に結びつけることが難しかった。 他の救貧施設等との関係、そこでの養育実態、また乳母や徒弟、養親委託など、クライスト・ホスピタルとその周囲の社会との関係について、さらに周辺の史料を渉猟し、成果に結びつけていきたい。クライスト・ホスピタルをはじめ、救貧院での教育とともに、身体、健康への配慮や治療実践についても、雇用の事実は確認したが、それ以上の記録を見出すことができなかった。
|