研究課題/領域番号 |
23531018
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研究機関 | 八戸工業大学 |
研究代表者 |
松浦 勉 八戸工業大学, 工学部, 教授 (30382584)
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研究分担者 |
佐藤 広美 東京家政学院大学, 現代生活学部, 教授 (20205959)
一盛 真 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (90324996)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 教育の戦争責任 |
研究概要 |
3・11の影響などもあり、研究の実質的なスタートは遅れたが、研究代表者である松浦と研究分担者の佐藤広美と一盛真は、下記の研究課題にとりくんだ。 松浦は、まずこれまで個別実証研究もないまま高い評価だけが一人歩きしてきた「教育史家」海後宗臣の研究史の批判的な検討と整理をすすめた。そのうえで、1930年代から敗戦直後までの海後の思想と行動をフォローしながら、(1)中国と東南アジア全域を対象とする植民地主義の占領地教育構想と(2)国内の義務制青年学校を基軸とする青年期教育構想、(3)青年学校教育を含めた学制改革・教育改革論、(4)(1)~(4)の課題にとりくむことを通して、海後宗臣の錬成論のとらえ直しを積極的に行った。これらの成果を、個別の実証研究として各学会誌などに発表する予定である。 分担研究者の佐藤は、戦前の教育科学研究会とそこに結集した教育学者たちの教育研究と運動に関しては、第一人者である。十分な研究の蓄積をふまえて、駒込武・川村肇・奈須恵子編『戦時下学問の統制と動員』(東京大学出版、2011年)の読書ノートをまとめ、研究会で報告した。これは日本教育学会誌『教育学研究』第79巻第1号、2012年3月に書評として掲載された。平成23年年度は、こうした佐藤ならではのとりくみがあった。同書の編著者たちの異論・反論が期待される。 分担研究者の一盛は、当初戦前・戦中と戦後の部落解放運動の視座から、1930年代から1950年日本の教育学の成果とその性格をとらえなおすことを意図していたが、その後部落解放運動自体を相対化し、等身大の部落解放運動像を描くための一環として、沖縄問題やハンセン氏病問題が提起する課題を積極的にうけとめるべく研究活動を継続した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者の松浦は、どうにか「研究の目的」をほぼ達成したと考える。後は、(1)~(4)のテーマごとに原稿用紙50枚程度の論考にまとめ、学会で発表したり、直接学会誌に投稿する予定である。 分担研究者の佐藤広美と一盛真は、どちらかといえば当初予定されていた個別実証研究を深め、具体的な成果をあげるというよりは、研究史の整理はもとより、その大前提となる研究の視座をきたえあげ、各自のトータルな課題と方法をより強固なものにするための作業にとりくんだといえよう。もちろん佐藤の場合は、すでに述べたように、その成果を学会誌に発表している。次年度以降には、個別実証研究の成果に反映されるものと思われる。 なお、昨年度から今年度にかけて分担研究者自身と研究代表者の近親者に健康上の問題等が生じたこともあり、必ずしも予定していた計画通りに進展させることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究の基本課題は、昨年度の研究活動の成果を具体的に形あるものにするとともに、今年度予定されている新たな課題にとりくむことである。研究代表者である松浦は、海後宗臣の敗戦以後の教育・研究活動へのとりくみとその成果を追究すると同時に、戦中においてこの海後とは「対立」関係にあった長田新の戦中と戦後の思想的な転回と研究の展開を検討する。 分担研究者の佐藤広美と一盛真は、新たな視点から戦中と戦後の教科研の運動とその達成、および戦前・戦中と戦後の部落解放運動の中心的な担い手となった北原泰作の思想と行動を、学校教育と社会教育とのかかわりで検討する。佐藤が主要に検討するのは、勝田守一の教科研への参加とそれにともなう教育学形成のプロセスとその意義であろう。まずなによりも、平成23年度の成果の発表を急ぐ必要がある。 そのためにも、第一次資料の収集をすすめながら、定期的に研究会を実施し、成果を共有することである。昨年度は、研究分担者の不慮の体調不良などがかさなり、3名そろっての研究会の開催に支障がでたため、この点において課題を残すことになった。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度は、日本諸学振興委員会の活動とその果たした役割を検討した駒込武・川村肇・奈須恵子編の前掲『戦時下学問の統制と動員』が私たちにとっては批判的に検討するに値する共通の文献となったが、今年度も隣接諸領域の成果を含めた、こうした共通の先行文献を検討することにより問題意識を共有しながら、地道に第一次史料と先行研究の調査・収集を精力的にすすめると同時に、3名そろっての研究会活動を定期的に確実に実施していきたい。そして、3名の研究の成果をそれぞれ確認し、共有していきたい。したがって、平成24年度はこの共同研究の中間年ということもあり、こうした活動に集中的に研究費を充当していきたい。
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