研究課題/領域番号 |
23531020
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研究機関 | 作新学院大学 |
研究代表者 |
小林 千枝子 作新学院大学, 経営学部, 教授 (10170333)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 定時制課程 / 社会史 / 戦後日本 / 教育 / 青年 / 自立 / 生き方 / 職業選択 |
研究概要 |
平成23年度は、定時制高校や通信制高校についての先行研究・ドキュメント類・調査報告書等の収集と分析に主力を注いだ。 具体的な研究成果としては、教育目標・評価学会第22回大会(会場・奈良教育大学、平成23年11月20日)での自由研究発表「定時制高校からのメッセージ―教育目標・評価論の社会的課題を探る―」にとどまった。 この研究は、定時制高校の実践記録、定時制を扱ったドキュメントや小説等20数冊を通して、定時制高校の持つイメージが1980年代後半期を境に変わることを明らかにした。戦後初期には定時制高校生は高校生としての誇りをもち、また、定時制であれ高校に進学できることが学問好きの青年の励みになっていた。定時制高校生は労働者であり、かつ高校生なのだが、高校生であることに自らのアイデンティティをおく者が多かったように見受けられる。ところが、1990年代になると、定時制高校生像は大きく変わる。社会の底辺に浮遊する若者が集まる場、あるいは社会のセーフティネットとしての定時制高校像が大きく出てくる。そうした高校の教育実践例として、兵庫県の西宮高校定時制でボクシングを手掛かりに生徒たちを導いていった脇浜義明の教育論と、同じく兵庫県の神戸高校定時制で、生活や労働をテーマにした短歌指導を行った南悟の実践に注目した。結論として、定時制の教育が、日本では成熟しなかったといわれる労働者文化を意図的に取り入れることで生徒たちが自らを奮い立たせる可能性があること、そうした文化を日本の学校教育が概して捨象しがちであること、教科外活動の重要性、働きながら学ぶことが青年に自立を促すうえで一定の有効性をもっていることなどを確認できた。 その他、発達障害を持ちながらも定時制高校の特別枠により入学して教師や友人の援助を得ながら青年期を豊かに過ごし、今日、画家として生きようとする青年の母親の聞き書き調査等も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度は次の3点を課題とした。(1)先行研究やドキュメント等の収集・分析、(2)栃木県下の定時制高校の大まかな流れを把握する。(3)京都府と愛知県下の定時制高校についての調査を行う。 このうち、(1)については一応できたが、学会発表にとどまり、研究論文としてまとめるまでにはいたらなかった。勤務先の紀要に発表する計画でいたが、仕上げ切れぬまま締め切りを過ぎてしまった。(2)については、資料収集にとどまった。(3)については、愛知県立起高校昼間定時制高校の卒業生に質問紙を通してのアンケート調査を行い、それによって聞き書き調査を進めるその準備までを予定していたが、調査自体ができなかった。 課題達成が遅れたのは確かだが、課題自体が多すぎたという面もある。自分自身の年齢や勤務先での役割等を勘案してもっとゆったりとした研究計画にするべきであった。勤務先での学務関係の仕事が例年になく多くなり、また、所属する学会より投稿論文の査読や書評執筆の依頼など予定外の仕事が入った。以上に加えて、本研究に先立って行っていた申請者の研究書出版の作業が予想をはるかに超えて難航したことも、研究が遅れた理由の一つである。結果的に、本研究に時間を注ぎきれなかった。収集資料を読む作業にとどまり、それらを研究ノートや論文として形に残すまでできなかったのが、残念である。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、平成23年度の学会発表をもとに、定時制高校をめぐる言説をもとにした研究論文を執筆し、勤務先の紀要に投稿するようにしたい。また、愛知県立起高校昼間定時制については、同定時制のもと教師を通して、限定されたクラスのものだが名簿を入手しており、それを手掛かりにアンケート調査を行い、聞き書き調査まで持っていくようにしたい。また、栃木県の動向についても活字としてまとめるようにしたい。 本研究は5年計画で、そのかんに定時制高校、さらには通信制高校についての一定の成果を積み上げることが必要である。活字としてまとめていくことを特に意識して進めることにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
聞き書き調査を進めるので、旅費を多めに計上して30万円とする。それに伴い、謝礼は当初の予定より1万円多く3万円を計上する計画である。他は、資料の複写や聞き書きに必要なカセットテープや電池、史資料の複写費、書籍、交通費(バスやタクシー代)、印刷用紙、文具等を予定している。
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