研究課題/領域番号 |
23531023
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
北本 正章 青山学院大学, 教育人間科学部, 教授 (10186273)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 子ども観 / 福祉国家 / 社会史 / 比較教育思想史 / 近代ヨーロッパ / 児童保護 / 子どもの遺棄 / 慈善 |
研究概要 |
本研究は、近代福祉国家成立期の欧米の福祉政策を支える子ども観が、いかなる社会史的展開を見せたかを解明することを研究計画全体(3年)のねらいとしている。本年度は、福祉と教育の関係に関して、政策史分析や法制度史分析にとどまらない、子ども観と福祉の社会史的展開を構造的に解明しようとする観点から、次の3点に焦点を当てて研究を進めた。 1.子どもの救済・保護・教育・自立支援という一連の教育福祉の諸段階の子ども観を、慈善団体、教会組織、政府、自治体レヴェルで解明する。 2.子ども観、子どもの保護、子どもの教育福祉の3つの社会史的領域の先行研究を渉猟する。 3.諸外国の子ども観の社会史的展開と福祉政策の論点を抽出する。 以上の3つの課題のうち、本年度の研究成果として纏めたのは、1.「父性」と子育ての思想的展開に関する社会史的系譜の研究、2.「子育ての習俗」に関する歴史人類学的研究、3.新しい子ども観の研究動向として重要なキャサリン・バークの「子ども期の理論」に関する解題、そして、4.19世紀の子ども観を描いたヘレン・アリンガムの子ども図像の分析、の4点である。さらに、世界の子ども観と児童福祉の比較社会史研究の成果を集めたファス編の『世界子ども学研究事典』と関連資料の検討は、この主題に関係する研究会での発表などを通じて、かなり進捗させることができた。これらの成果は、いずれも近現代の児童福祉と子ども観の基礎概念として重要であり、わが国における新しい子ども理解の教育学の学術的視野を広げ、子どもの教育と福祉の諸政策の思想的・理念的基盤の構築に貢献できる意義があると確信する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
子ども観と福祉の基礎概念に関しては、ほぼ当初の計画通りに成果を纏めることができた。子ども観と児童福祉の基礎概念である「父性の社会的展開」「育児慣習の歴史人類学的考察」「子ども期の理論」に関しては、それぞれ学術論文に纏めて公表した。また17世紀から19世紀にかけての子ども観と教育意識の社会史的変容については、本研究計画の遂行と並行して、2つの訳書、ジョン・ロック著(単独訳)『子どもの教育』(原書房、2011年7月)と、デイヴィド・ヴィンセント著(監訳)『マス・リテラシーの時代――近代ヨーロッパにおける読み書きの普及と教育』(新曜社、2011年9月)を公刊した。 本年度当初に予定していた海外出張による資料調査と、H.カニンガムら各分野の研究者との意見交流は、健康上の理由により、次年度に持ち越すこととしたが、国内における研究動向の把握と参考情報の収集は、ほぼ計画通りの進捗をみた。次年度に延期した海外での資料調査に代わって、国内で可能な資料収集と調査分析に注力したため、物品費(文献費)が若干膨らんだが、P・S・ファスらの『世界子学研究事典』で網羅されている関連項目とそこに示されている有力な研究情報を手がかりに、標題に関する調査研究は大いに進捗した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の変更点は、健康上の理由から、海外での資料調査と諸外国の研究者との学術交流を、次年度に繰り越したことである。これは、研究代表者の持病(高血圧と心臓病、腎臓結石)が悪化したため、主治医から海外出張を見合わせるよう助言を受け、研究計画の変更を余儀なくされたためである。今年度に研究計画に措定していた海外での調査研究と、研究者との情報交換は、次年度の研究計画に含めて遂行する。 今後の研究は、まず、各分野の先行研究で明確にされた論点整理を行いつつ、研究動向を第1期の1960~1970年代、第2期の1980~1990年代、第3期の2000~2010年代の3つの時期に即して論点整理を行う。第2に、必要な研究文献の収集を効果的に進めるために、海外出張による資料調査活動と、H.カニンガムら各分野の研究者との意見交流を行うとともに、ファス編の『世界子ども学研究事典』の内容をさらに詳細に検討し、関連する研究成果を公にする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の未使用分は、次年度の費目に繰り込んで使用する。次年度では特に、次の点に注力し、必要な経費を計上して研究計画を遂行する予定である。 第1に、標題に関する研究資料の収集と研究動向の把握に必要な経費を計上する。とくに19世紀末から20世紀初めにかけて見られた大規模な子どもの貧窮化、飢餓の拡大、虐待と遺棄の進行など、児童福祉の実態に関する究資料収集のための物品費(資料蒐集費用)と資料等の印刷費を計上する。 第2に、世界的な視野で子どもの救済と保護運動を組織し、「ジュネーブ宣言」の思想的地ならしをおこなって、今日の世界の児童福祉と子どもの権利思想の啓発者として大きな足跡を残したエグランタイン・ジェブ(Eglantyne Jebb, 1876-1928)の活動と関連資料の現地調査費(海外旅費)を計上する。 第3に、子ども観の社会史研究、児童文学の社会史研究に関する物品費(文献資料)を計上する。
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