研究課題/領域番号 |
23531023
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
北本 正章 青山学院大学, 教育人間科学部, 教授 (10186273)
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キーワード | 子ども観 / 福祉国家 / 社会史 / 比較教育思想史 / 児童保護 / 近現代ヨーロッパ / 子どもの遺棄 / 慈善 |
研究概要 |
本研究は、近現代欧米における福祉国家の成立期の子ども観と発達観を社会史的な文脈の中で総合的・相関的に解明しようとするものであり、2013年度の当初計画では次の3点を目標としていた。 (1)研究資料の収集と研究動向の把握、(2)E・ジェブの子ども観思想分析、(3)子ども観史と福祉政策の論点整理。 以上の3点についてほぼ計画通りに進捗し、いくつかの口頭発表、2つの単行本の出版、および論文などで成果を見た。 研究成果の口頭発表では、比較教育社会史研究会2013年秋期全国シンポジウム(2013年10月25日開催)で、「子ども観と教育の社会史研究の最前線――アリエスからカニンガム/スターンズまでの動向・課題・展望」と題して研究講演をおこなった。出版物では、児童文学と子ども観の社会史研究の接点の諸問題を出版企画したものとして、わが国を代表する児童文学者、神宮輝夫の国際グリム賞受賞記念論文集『子どもの世紀――表現された子どもと家族像』(神宮輝夫・高田賢一・北本正章編著、ミネルヴァ書房、2013年7月)を出版した。また子ども観の社会史の研究動向については、詳細な訳注(323-73頁)と「訳者あとがき」(379-86頁)を付した、カニンガム著(北本正章訳)『概説 子ども観の社会史――ヨーロッパとアメリカにみる教育・福祉・国家』(新曜社、2013年11月刊)として邦訳出版した。研究計画の(2)と(3)にかかわる成果は、これらの出版物に反映させることができた。 以上のことから、今年度の成果はいずれも、近現代史における子ども観と福祉政策の基本構造を解明する上で必要な学知の視野を広げ、子どもの教育と福祉の諸政策の思想史的・理念的・文化史的基盤を構築する上で学術的に意義のある貢献をなし得たと確信する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近現代の欧米における福祉国家成立期の子ども観と発達観を社会史的な文脈の中で総合的・相関的に解明しようとする観点から、2013年度は2つの出版物を公刊した。 口頭発表では、比較教育社会史研究会2013年秋期全国シンポジウム(2013年10月25日開催)で、「子ども観と教育の社会史研究の最前線」と題し、パネリストとして研究講演をおこなった。出版物では、わが国を代表する児童文学者、神宮輝夫の国際グリム賞受賞記念論文集『子どもの世紀――表現された子どもと家族像』(神宮輝夫・高田賢一・北本正章編著、ミネルヴァ書房、2013年7月)と、カニンガム著(北本正章訳)『概説 子ども観の社会史――ヨーロッパとアメリカに見る教育・福祉・国家』(新曜社、2013年11月刊)を邦訳出版し詳細な訳注を施し、本研究の成果の一部を反映させた。 論文では、「ヨーロッパとアメリカの小児医学史における子ども観問題――子どもの病気の歴史と児童文学史の接点について」(児童文学文化研究会「ニュースレター」第5号、2013年12月)、および、「シャボン玉遊戯図にあらわれた子どもの生命観の変容に関する歴静像学的考察――"Homo bulla"と"Vanitas"の伝統から衛生科学の時代へ」(「教育研究」第58号、2014年3月)にまとめた。 以上のことから、今年度の研究計画はほぼ順調に進捗してきた。なお、健康上の理由から、研究期間を1年延長することについては、すでに申請手続きを終え、承認を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
健康上の理由から、研究期間を一年延長することについては、すでに申請手続きを終え、承認を得ている。今後はとくに、表題の研究と密接な関係がある基礎文献の解題に取り組むこととしている。具体的には次の2点に焦点を当てて進める予定である。 (1)アメリカ合衆国カリフォルニア大学バークレイ校のポーラ・S・ファス編集の『世界子ども学研究百科事典(仮題)』全3巻を主要な資料源として、編集グループとの研究交流を図ると共に、この事典の解題、訳注、資料分析をおこない、すでにその邦訳出版が決まっている出版社(原書房)との企画打合せを集中的に進める。全433項目のテクストの精査をおこない、必要な訳注と研究解題を加えることとしている。 (2)表題の研究主題を構成する欧米における小児医学史と子ども観についても調査を進め、新しい子ども学研究の基礎的カテゴリーを考察する。また、教育学と子どもの発達思想に影響を及ぼしたと思われる近現代の医学・生理学・衛生学・心理学を通底する進化思想と子ども観の関係についても考察を加える予定でいる。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初研究交流を計画していた海外の専門家、ケント大学のカニンガム教授が病気療養状態になったため、2013年秋の研究会「比較教育社会史研究会秋期全国シンポジウム」への招聘が不可能になり、その分の予算を残置した。また、研究代表者自身も、健康上の理由(2度にわたる検査入院など)から、当初の研究計画をエフォート通り遂行することが困難となり、研究計画の一部を縮小し、研究活動の全体をスローダウンせざるを得なくなった。 以上の理由から、当該年度の計画をそのまま一年延期して遂行することとした。 (1)病気療養中のカニンガム教授とはメールでやりとりできるため、引き続き必要な助言を得つつ、海外の研究動向・関連資料の収集を継続するための費目を計上する。(2)子ども観研究のグローバル・アプローチに関する助言を得るために、先進的な研究を進めているカリフォルニア大学のP・S・ファス教授、上海師範大学の方明生教授とのアカデミック・ミーティングのための旅費を費目計上する。(3)子ども観の社会福祉史・文化史的アプローチの成果である「世界子ども学研究事典」全3巻(Paula S. Fass editor in chief, Encyclopedia of Children and Childhood in History and Society (Thomson Gale, Macmillan, 2004), 3 vols.の詳細なテクスト・クリティークとそれに必要な関連文献・資料の収集のための予算を計上する。 以上の予算計画によって、一年延期の研究期間を有効活用することとする。
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