研究課題/領域番号 |
23531025
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
太田 明 玉川大学, 文学部, 教授 (30261001)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 世代間倫理 / 未来世代 / 責任 / 世代間正義 / UNESCO / ハンス・ヨナス / グローバル化 |
研究概要 |
研究課題「グローバルかつ長期的な未来世代への責任を志向する教育学の基礎的研究」に対して,A.「現代の世代の未来世代への責任に関する宣言」の検討、B. (ハンス・ヨナスなどの)未来責任の思想の原理的検討、C. (K.-O. アーペルとその研究グループによる)討議倫理学的共責任論の理論的・実践的検討、の3つの部分的なテーマを設定し、AからBを経てCへと年次的に重点を移動するように研究計画を立てた.A. については,3回の学会発表と1編の論文を発表した.論文は上記の「現代の世代の未来世代への責任に関する宣言」(ユネスコ,1997年採択)に関連してしばしば言及される「OPOSA裁判」についての紹介と考察である.これはフィリピンで提訴された環境問題に関する裁判である.「未来世代の代表」として現在の子どもたちが原告となり,原告適格性を含めて,その訴えが認められた稀有なケースとして有名であるが,これまで重点的に取り上げられたことはなかった.本論文では裁判の経緯を整理するとともに,批判を踏まえて,論点を整理した.B.については,3回の学会発表と2編の論文を発表した.一編はいわゆる「世代間正義論」(intergenerational justice theory)について,その正当化および批判の「論法」に着目することで,世代間正義論が「困難」とされる理由を解明しようとするものである.他の一編は「責任」概念の由来と展開に関するものである.以前からの研究を踏まえて,マッケーオン,リクール,バイエルツによる責任概念の由来と展開に関する研究を比較し整理した.来年度以降も継続する予定のサブテーマである.C.に関しては,部分的に関連する研究を行ない,ある論文の一部分として発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請当時の研究計画では3つのサブテーマA、B、Cを設定し、海外での調査を組み入れていた.しかし、採択が決定する前に、夏期休暇中から年末にかけて開催される国内学会で4件の発表を既に申し込んであり、これらの準備と発表を優先せざるをえなかった.特にCの資料調査・インタビューについては進捗がやや遅れている。ただ,B, Cに関連して,3.11東日本大震災と福島原発事故に関する国際シンポジウム(What March 11 Means to Me: A Symposium in Honor of Norma Field, Chicago University, 2012.03.10-11)に参加し,「未来への責任」という研究テーマに関して重要な知見を得ることができた.また,現在までに6回の口頭発表を行い、3編(テーマAについて1編、Bについて2編)の論文を発表した。したがって、全体的にはおおむね順調に進展していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、平成23年度は年度前半で得た成果を国内学会で発表することに力を注いだため、海外での調査研究を行う時間が十分に確保できず、その分の経費(主に旅費)を来年度に繰り越すことになった。24年度は、さしあたり申請時の当初計画通りに進めるが、23年度に実施できなかった分を含めて調査研究に重点を置く。得られた成果は順次,学会などで発表していく.A. に関しては,「信託財産(trust)としての地球」という思想と「未来世代の権利」論との関連を中心に検討し,「未来世代への責任」,"Ethics for Future"に関してさらに深めていく.B. に関しては,「責任」概念の由来と展開に関する検討を継続するとともに,それを踏まえて,ハンス・ヨナスの「未来責任」の思想を見直す作業に着手する.とりわけ国外で類似の研究書が出版されはじめている点を鑑み,これらを視野に入れて検討する.C. に関しては,国内外の資料調査およびヒアリングを行ない,ワークショップに参加するとともに,Bと関連する部分について文献的研究を行なう.
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次年度の研究費の使用計画 |
おおむね当初計画通りに使用する予定であるが,23年度からの繰り越しによってやや余裕ができたので、それに応じて少々変更する.・当初計画で24年度は物品費の計上は多くないが,参考文献の収集をさらにすすめる必要があるため,それに充てる費用を増加させる.・日程調整の問題が残るが、テーマB・Cに関連した海外調査(ドイツ、イギリス)を2回程度行う予定である。B.に関してはFRGR(Foundation for the Rights of Future Generations)(ドイツ),C.に関してはSocratic Dialogueのワークショプ(イギリス,ドイツ)ヘの参加を予定している.・その他、関連する国内学会、研究会などへ参加し、情報・資料収集・発表を行う.
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