研究課題/領域番号 |
23531029
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
田中 智子 同志社大学, 人文科学研究所, 助教 (00379041)
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キーワード | 旧制高等学校 |
研究概要 |
当初計画した通り、北陸・中部ブロックの旧制高等学校計5校(新潟・富山・第八=名古屋・松本・静岡)に関する史料調査を終えた。すなわち、新潟県立図書館・文書館、富山県立図書館・公文書館、愛知県図書館・公文書館、名古屋市市政資料館、松本市中央図書館・文書館、長野県立歴史館、静岡県立図書館、そして、各県・市の議会図書室を訪問し、①関連の公文書、②関連の新聞記事、③関連の議会議事録の収集にあたった。また、前年度に調査が完了しなかった旧制水戸高等学校に関わる史料調査も、茨城県立歴史館において実施した。 史料調査の結果、特に新潟高等学校の設立経緯を解明する必要性を認識し、新潟に焦点をしぼって集中的に研究を進めることにした。今年度、特に新潟での史料調査の回数が多くなっているのはそのためである。 新潟は、1872年の学制以来、全国に配置された「教育拠点」の一つであったが、1886年に発足した高等中学校制度においては、その設置箇所とならなかった。にもかかわらず、経費負担は多額であり、全国的にみてもっとも強い不満を覚えた県であったと位置づけた。そして、それ以来の思いが、世紀転換期の新潟高等学校設置運動、大正期におけるその実現をもたらしたエネルギーとなったと捉えた。また、新潟高等学校設立運動の過程において、長野や愛知が競争相手として浮上し、都市(府県)間競争としての官立高等学校誘致の時代が始まったものと考えた。このように、新潟を中心的考察対象に置くことで、他の調査対象都市との有機的関係が浮かび上がり、旧制高等学校設立史の総合的研究という本研究課題の意義を再認識するに至った。 こうした新潟の動きにそくしての研究成果は、北陸史学会の大会報告として公表し、現在その論文化に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、震災の影響によって生じた史料調査の遅れを取り戻し、当初計画のペースに追いつくことができた。次年度には、残り2つの史料調査対象を残すのみとなった。 また、研究成果の口頭発表も行い、関連論考も公表した。 研究内容については、研究目的の一つの挙げた「学都」等の用語生成過程の考察という点において、その画期を世紀転換期あたりに求めるという基本的な視角を得、文部省のスタンスについても見通しを得ることができた。 以上をもって、「おおむね順調に進展」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
新潟以外に、キーとなる旧制高等学校の析出につとめる。文部省の政策の基本的な特徴や地元側による誘致運動の形態(関係者層・運動様式)を仮説的につかむとともに、各地域の動きを一つの連関する動きとして捉えるために有効だと考える。重点事例を定めることで、史料調査についても、まんべんなく浅くではなく、一点集中で、効率的に進めることができると思われる。 また、新聞資料については、現地に赴くよりも国立国会図書館を利用する方が便利な場合も多いので、東京への史料調査の回数を増やすつもりである。 関連学会にはつとめて足を運び、研究成果の公表を心がける。
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次年度の研究費の使用計画 |
予定通り、九州ブロックの高等学校(佐賀・福岡)に関わる調査を実施し、両校の設立経緯についての認識を深める。調査対象機関は、両県の県立図書館、県議会図書室を中心とし、先方の状況次第では、佐賀・福岡両市市議会図書室も訪問する予定である。史料調査に関わって、交通費・宿泊費・史料複写費を計上する。 また、新潟高等学校設立過程に焦点をあてることの有効性を認識できたので、引き続きこの事例を追究する。新潟・松本・名古屋における史料調査を前年度同様に行い、近隣の山形についても、新潟との関わりという視点からあらためて補足調査を実施したい。 学会への出張費を計上する。関連図書・史料が刊行された場合には、その収集を図る。
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