研究課題/領域番号 |
23531037
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
平田 淳 弘前大学, 教育学部, 准教授 (90361005)
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キーワード | 開かれた教育行政 / 開かれた学校づくり / 学校協議会 / カナダの教育 / 先住民保障代表制度 / 国際情報交換 |
研究概要 |
まず当該年度は、前年度行ったカナダ・ユーコン準州における学校協議会及び先住民保障代表制度に関する調査のまとめと学会での発表や論文の執筆の準備から始めた。カナダにおける先住民教育は、当初はキリスト教宣教師による寄宿学校においてなされてきたが、それは先住民の子どもを親元から引き離し、先住民独自の言語や文化などの継承を困難にさせた。その後先住民以外の子ども(多くは白人)と同じ学校に就学するようになるが、カリキュラムは白人の価値観によって構成されており、また先住民の声を体系的に教育行政や学校運営に反映させる仕組みは存在しなかった。しかし1990年に教育法が制定されると、他の多くの州・準州に先駆ける形で各校への学校協議会の設置と、学校協議会委員の一定数を先住民に割り当てる「保障代表制度」が導入された。しかし、制度導入から20年以上が経つが、制度化当時の想定は必ずしも達成されていないことが明らかとなった。 当該年度後半は、サスカチュワン州での学校協議会調査の準備とその実施に向けられた。当該州では長い間、事実としての保護者や地域住民の学校参加が実施されていたが、その形態は管轄する教育委員会により異なるものであった。そこで2006年に全州レベルで各校に保護者や地域住民から構成される学校協議会を設置する法改正を行った。当該州の学校協議会の特徴は、選挙によって選ばれる公選委員と任命によって選ばれる任命委員の二種類が存在すること、先住民居留区在住の先住民の子どもがいる場合、最低一名の先住民委員を含むこと、などである。学校運営の民主性と地域の人口構成の多様性を反映させることを両立するために公選委員と任命委員の双方を有するという点が特徴である。他方で調査からは、教員の専門性を超える形での参加を委員は望んでいないという点が明らかになった。参加の形態や深度については、再考の余地があるという知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、一昨年度の調査のまとめと昨年度分調査の実施を目標として研究を行った。前者に関しては学会で発表し、また発表原稿をまとめた論文は、現在ある学会誌に投稿中である。後者に関しては、次のようになっている。すなわち、当初はサスカチュワン州リジャイナ市とマニトバ州ウィニペグの二市を訪問し、現地調査をする予定であった。しかし、インターネット上でダウンロードできるサスカチュワン州教育省や州内教育委員会の資料や、あるいは国内のカナダ教育研究者への聞き取り調査を通して、サスカチュワン州は州レベル全校で学校協議会が設置されているという点では一律になされているが、委員数や審議事項等については各学校が定める規約によるということになっており、管轄する教育委員会の政策や学校の方針により、学校協議会のあり様は異なるということがわかった。つまりリジャイナ市一市を調べてサスカチュワン州としての学校協議会のあり様を説明するには、データの妥当性の観点から十分ではないと思われた。そのため、マニトバ州ウィニペグ市での調査は中止して、代わりにサスカチュワン州サスカトゥーン市を訪問し調査を行った。結果として州教育省と5つの教育委員会の職員、2小学校及び1中等学校の校長へのインタビュー調査を行い、2つの学校協議会会議の観察調査をすることができた。インタビュー調査では、調査協力者は他州のことについて詳しいかは不明だが、同じ州のことであれば比較的知識があるものと思われるため、同州内の異なる教育委員会の職員に聞き取り調査をすることによって、質問事項に他教育委員会との比較の観点を含めることができた。つまり、訪問州は一州減少したが、訪問市は当初計画通り二市であり、調査から得られたデータは、同州内の比較の視点を入れることができたため、当初計画より深いものとなった。そのため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本課題研究は今年度と来年度の2ヵ年を残すところとなった。本年度は従来どおり、昨年度の調査のまとめと今年度調査の準備及び実施を行う。前者に関しては、今年度前半に学会発表と論文の執筆を計画している。後者に関しては、引き続きカナダの現地調査を行う。訪問先としては大西洋沿海諸州、すなわちニューファンドランド・ラブラドール州、ノバスコシア州、ニューブランズウィック州、プリンスエドワード島州のいずれかを予定している。というのも、ブリティッシュ・コロンビア州やユーコン準州などカナダ西部、サスカチュワン州やオンタリオ州など内陸州については既に情報を収集しているが、カナダ東部については日本国内のカナダ教育研究者の間でも情報が不足している状況であるからである。カナダは10の州と3つの準州から成る連邦国家であるが、教育に関する管轄権限は州政府にあるため、州によって教育制度は異なる。つまり複数の州の教育制度を研究対象とするということは、複数の国家の教育制度を対象とすることに等しい。そのため、本年度行うカナダ東部諸州調査は、それら諸州における教育行政制度や学校運営制度をその法令的根拠を確認することから始めることになる。いずれの州にも教育法あるいは学校法という名称の、学校教育や教育行政について定める法律と細目を定める規則があるため、まずそれらの法令を読むことにより、制度の全体像を把握する。その上で調査実施にふさわしい州を絞り込む。現段階では、東部4州すべてで学校協議会が導入されていることは確認済みであるが、委員の構成(児童生徒を含んでいるか)、任命方法、権限等詳細については今後調べていく予定である。また、学校運営だけでなく、教育行政への住民の意見反映がどのようになっているかも調査対象とする。その上で、調査に適した州をいくつか採り上げ、実際に現地調査を行いデータを収集する計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
調査相手方の都合により調査実施時期が3月となり、業者にICレコーダーに録音したインタビュー調査の内容を文書に起こしてもらうよう発注することを次年度にしたため。 ICレコーダーに録音したインタビュー調査の内容を文書に起こすための費用として使う予定である。
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