本研究においては、カナダ諸州の教育行政や学校運営が、保護者や児童生徒、地域住民等に対してどのように「開かれて」いるのかについて、文献研究や現地調査を通して明らかにした。最終年度にあたる当該年度は、研究成果報告書の作成と、平成28年10月にブリティッシュ・コロンビア州のバンクーバー教育委員会において起こった州教育相による官選教育委員の任命による公選教育委員の失職について、その背景を探るための現地調査を行った。 カナダ建国の民はイギリス系とフランス系であり、カナダ社会は両者のバランスをいかにとっていくかを常に重視してきた。地方教育行政としては、ほとんどの州において英語系・無宗派の学校を管轄する教育委員会とは別に、フランス語を教授言語とする学校あるいはカトリックの教義に基づく学校を管轄する教育委員会が制度化されており、フランス系の特殊性を重視している。また、教育委員は全州において原則として公選制を採っているが、公選制ではその特殊なニーズが反映されにくい先住民等のマイノリティ・グループについては、そのグループに特化した形で教育委員を任命したり、また特別委員会を設置するなどして、多数決原理のみでは達成され得ないマイノリティの教育ニーズを重視する制度を有している。それは学校運営レベルにも当てはまる。すなわち、全州において何らかの形で保護者や地域住民、児童生徒が学校運営に意見表明する組織(学校協議会)が制度化されており、学校協議会の委員は公選を基本としている。他方でユーコン準州の「教育委員保障代表制度」やサスカチュワン州の「学校地域協議会任命委員制度」のように、マイノリティ・グループに一定数の委員枠を割当て、多様な意見を学校運営に反映させるための仕組みがあることがわかった。しかしそれは法制度上のことであり、現実は必ずしも制度が想定した通りにはなっていないこともわかった。
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