本研究の目的は、主に小学校の通常学級において、子どもの多様な「問題行動」を克服するための指導方法を研究し、特に表現活動を介した相互交流の有効性を示すことであった。本研究では、「問題行動」を、学習への不適応や逸脱行動、発達障害による不適応、暴力行為、いじめなどである。事例をもとにした質的研究であり、学術的アプローチとしては現象学を用い、その方法論の検討を行うことも、本研究の目的に含まれていた。 この目的を達成するために、主に、①通常学級における問題行動やその克服の事例収集(文献、参与観察、インタビュー)、②関連する先行研究の検討、③実存哲学を含む現象学アプローチの検討、④現象学、実存哲学を導きとした事例の解釈や分析を行った。 最終年度には、上記②の作業を通して、当初は予期しなかった知見、本テーマには、脳神経科学のここ5~10年の研究成果が示唆的であるとの知見、さらに、霊長類研究や生物学研究も有効に関連するとの知見に至った。 研究成果としては、問題行動や悪とみられる子どもの行動は、子ども個人のみの要因ではなく、学級集団や家庭や地域など周囲環境からの要因も強いことが判明した。また、問題行動は、特にその萌芽期には、必ずしも「発達上の病理」ではなく、健全な発達の一環、一表現であると考えられた。そして、多種多様な問題行動には、より根源的な共通した発生メカニズムがあるとの仮説に至った。そして、現象学や実存哲学は、その発生メカニズムを、事例に即して解明するために、有効な方法であることを示した。 本研究の成果は、学会発表や学術誌への投稿により公表し、また、代表者が所属する大学ならびに専門職大学院での教員養成の授業、教員免許状更新講習、教育委員会の研修などに活用し、現職教員のスキルアップや教員養成にてフィードバックを行った。
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