研究課題/領域番号 |
23531042
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
田代 美江子 埼玉大学, 教育学部, 教授 (40297049)
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研究分担者 |
艮 香織 宇都宮大学, 教育学部, 准教授 (10459224)
渡辺 大輔 都留文科大学, 文学部, 非常勤講師 (00468224)
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キーワード | Sexuality Education / Gender / 韓国 / 台湾 |
研究概要 |
本研究の具体的な目的は以下の3点である。①韓国および中国(香港、台湾を含む)における性教育の背景、その具体的内容および教材分析を行い、日本の性教育との比較分析を行うこと、②性教育先進国である北欧、オーストラリアなどの性教育との比較を行い、日本を含む東アジアにおける性教育の特徴と課題を明らかにすること、③東アジアにおける性教育の課題を踏まえ、学校現場の教員と協力し、教材および教育方法の開発、授業研究を行い、日本の子ども・若者の現実と要求に即した性教育実践の具体的課題と展望を明らかにすることである。 研究計画に基づき、本年度は次の成果をあげることができた。第1の目的に関しては、昨年度の韓国調査の成果をまとめ、発信することができた。この取り組みは継続中である。また、今年度当初、中国北京への調査実施を計画していたが、中国の環境問題や中日関係の問題を勘案し、調査地を台湾に変更し、訪問予定の台湾性教育学会、性教育教材を開発している杏陵医学基金会、両性平等教育協議会、エイズ基金会などとの調整を済ませることができている。第2の目的に関わる取り組みとしては、ユニセフが2009年に出している"International Technical Guidance on Sexuality Education"の検討を行い、国際的な動向と日本、東アジアの状況について分析を進めた。この成果を、インドで開催されたBiyani's International Conferenceにおいて報告した。第3の目的に関わる取り組みとしては、継続的に取り組んできたM中学校の実践を冊子にまとめ、性教育関連セミナーで報告した。さらに、新たなフィールドとなる中学校の協力を得られることになり、異なる中学校での実践が実現した。また、青年を対象とする性教育教材として、リーフレットCDという形で作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度の報告書作成時点での24年度の計画では、①中国への現地調査を含め、23年度数周した資料、教材の分析を進めること、②学校現場との協力体制のもと、性教育の指導案、教材の作成を進めること、③日本の性教育の課題について東アジアとの比較および国際的な視点から課題を検討すること、④①~③を進めるために、定期的に研究会を開催し、また成果について学会等で発表することを目標とした。 ①の現地調査に関しては、中国への調査が外的な条件により実施困難となったが、25年に予定していた台湾調査の準備に切り替え、新年度の実施に向けての準備が順調に進められた(本報告書作成段階ですでに調査は実施済みであり、予想以上の成果を得ることができている)。②に関しては、これまで5年にわたって授業実践研究を続けて来たM中学校だけでなく、新たなフィールドとして、東京都内のA中学校の協力を得られることになり、授業研究を集中的に実施することができた。その成果を授業案を中心とする冊子にまとめた。また、青年を対象とする教材CDを作成することができ、頒布した。③についても、特に国際的な観点からの分析を進めている。 ④について、実践研究(授業案作成、授業実践、授業観察、検討会、生徒への調査と聞き取り)の取り組みは、M中学校、A中学校の両校において実施することで、より授業案や教材の有効性や方法についての検討を深めることができた。また、その成果を性教育関連セミナーで報告した。協力教員との打合せも合計年10数回に及んだ。海外情報やこれらの実践に関する成果を教員に還元するために、『季刊セクシュアリティ』にも発表した。以上の点からも、24年度の実績はおおむね順調に進行したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画を踏まえ、25年以降については、以下のような課題に取り組み成果をあげたいと考えている。 第1に、東アジアを対象とした海外調査については、年度当初に台湾を訪問する。8月には第5回アジア性教育学術会議が中国で開催されることから、そこでの報告を行い、同時に大陸における性教育調査を実施する。学術会議でネットワークを構築することで、その後あらためて中国調査を実施することも検討している。第2に、収集した、東アジアの性教育教材の分析を進め、各国の社会状況や政治、教育政策、教科書などの教材津kりなど、広い観点から全体像を押さえ分析を進めて行きたい。 第2に、あらたなフィールドであるA中学校での実践研究をさらに深めると同時に、M中学校においては、これまで研究協力者であった養護教諭だけでなく、保健科教諭とも連携を図り、授業研究を進める努力をしていきたい。授業案についても、さらに検討し、教材の工夫も進めて行く。特に、生徒への授業アンケートやインタビューを充実させ、さらなる授業の発展に活かしていきたい。実践研究の手法やその成果については、現場の教員に具体的に発信することを目指す。 第3に、これまでの研究成果をアジア性教育学術会議を始め、性教育関係セミナー、他の学会等でも発表を行う。まとめの最終年度でもあり、これまでの成果全体を、少なくとも報告集として形にする。こうした取り組みを円滑に進めるため、定期的に研究会を開催する。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度の研究経費については、120万円の直接経費のうち、物品費20万円、旅費70万円、人件費を25万円、その他5万円と計画している。 特に旅費については、東アジアの性教育の実態を把握するために、現地調査は必要不可欠であり、研究費の多くを割くことになる。24年度に予定していた海外調査のための経費としての24年度までの未使用分(約58万円)を、25年度の予定額に加えることで、中国大陸と台湾での調査の両方を実施できると考えている。この他、中学校での実践研究のための出張、定期的に開催する予定の研究会に関わる旅費も必要となる。 謝金については、現地調査をスムーズに遂行するためには、中国語通訳者、また訪問先での現地協力者への謝金が必要となる。加えて、その翻訳および分析作業についても中国語の専門的能力を有する協力者が必要である。さらに収集した資料は膨大になるため、その整理のための人員も必要となるが、これについては、大学院生のアルバイトを計画している。 物品費に関しては、海外調査での資料、テキスト、教材の購入にかかる費用の他、25年度は最終年度にあたるため、報告集の作成費用として計上したい。その他、研究に伴う複写費等は、資料収集と教材分析においては不可欠である。また、研究協力者との通信費等についても計画している。
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