研究課題/領域番号 |
23531054
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
平井 貴美代 山梨大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (50325396)
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キーワード | PTA / コミュニティ・スクール / GHQ-SCAP |
研究概要 |
本研究では、占領期における米国学校管理・経営論の導入時に見られる受容とその後の日本的変容について、とりわけ「コミュニティ」をめぐる管理・経営論に焦点づけて検討することを目指している。初年度には、占領下の学校管理・経営論の導入過程に関わる主要な文書のうち、とくに文部省(当時)など日本側の取り組みに関する先行研究や雑誌記事・著書などの刊行物を収集し、占領政策を受容する側の認識について分析を行った。今年度はその成果を論文にまとめて発表するのと同時に、占領統治側であるCIE教育課や地方軍政部の認識や行動について、先行研究やGHQ/SCAP文書等の資料を収集し、分析を行った。 無数に存在する一次資料から「コミュニティ」概念を漠然と探るのは困難であるため、今年度より当時の教育管理経営上の主要施策である、PTA(父母と先生の会)とコミュニティ・スクールに焦点づけることとした。PTAについては、社会教育分野で多くの研究蓄積があるが、すでに発掘された資料を改めて読み直すことで、教育管理的な問題を抽出することができる。他方のコミュニティ・スクールについては、占領文書等を用いた研究はほとんど見られず、施策の導入過程については、不明な点も多い。教員養成や社会科教育などの先行研究に引き続き当たる必要があると考えている。 今年度の研究を通じて、占領統治側の主要関心であった民主化と関わり、教育管理経営における「コミュニティ」的存在の質的内実についての問題認識が、当時の政策担当者などの関係者に共有されていたことが分かった。同時に、そうした米国的な理想を導入することが日本の当時の実状において困難であったことも、調査や報告等から確認することができる。受容過程において起こった「日本的変容」のプロセスと、そのことがどのような帰結をもたらしたのかということについては、次年度の主要な課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コミュニティ・スクールとPTAの両施策について、初年度には手が及ばなかった占領統治側や地方の取り組みに関する一次資料に多くあたることができた。とくにPTAについては、これまで専攻分野が異なることから触れる機会の少なかった社会教育分野において、研究蓄積が相当程度あることがわかり、そうした先行研究をきっかけにして主要な文書を多く収集・分析することができた。先行研究と本研究とは研究関心が異なることから、引き続き独自にGHQ/SCAP文書にあたる必要はあるが、収集すべき資料の見通しを得ることが出来たことは収穫である。 コミュニティ・スクールについてもいくつかの地方の取り組みについて把握することができた。今後は現地で実地に資料を確認することが必要になるかもしれないが、PTAとは対比的な存在として、両者を関連付けて論じる見込みがたったことから、全国の取り組みを網羅的に扱うのではなく、両者のかかわりが強くみられる典型的な事例を詳しく論じることで、そこに見られる日本的受容の問題を明らかにできると考えている。前年度に得た「アソシエーションの理念」を鍵概念と位置づけ、そのことを具体的な形態として表現しようとしたPTA参考規約の作成過程については、とりわけ丁寧に見ていくことで様々な発見が得られると考えており、次年度に向けての課題として残されている。 前年度に取り組んだ占領政策を受容する側の認識についての分析を論文にまとめたことにより、様々な助言をいただく機会を得ることもできた。また、そのことを通じて学校管理経営論におけるコミュニティ概念を考える際の論点を抽出することができたことも大きな収穫であった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度でほぼ資料の収集と分析を終えたPTAの受容過程における「日本的変容」のプロセスと、そのことがもたらした帰結については、次年度中に学会誌等に投稿して公にする予定である。コミュニティ・スクール政策については、PTAの研究ほどの研究蓄積がないために思うように進捗していないが、今年度公表した論文「占領下学校管理改革における学校―保護者・地域連携」において提示した論点を深める論考を準備したいと考えている。具体的には、当時の実践に大きな影響を与えたオルセン他『学校と地域社会』(宗像誠也ほか訳)に焦点づけて、それを受容した日本側の取り組みと、第1版に大幅な改訂をほどこして取り組み内容を変化させた米国側の実践とを対比することにより、両者における「コミュニティ」概念の質的違いや、そのことが及ぼす取り組み内容の射程の違いなどを抽出する予定である。また、米国の教育史学者タイヤックが著書、The one best system: A history of American public education(Cambridge, MA: Harvard University Press, 1974)で描いた、米国農村部のコミュニティ・イメージの学校教育への影響に関する分析に学びながら、同様の視角から日本の学校教育におけるコミュニティ・イメージの影響如何について考察を行いたい。 次年度は3年間の研究のまとめの年にあたる。計画段階では論文の執筆や学会での口頭発表の準備にあてることを予定していたが、論文や発表の精度を高めるためには、引き続き占領期の文書や地方の一次資料についての探索・収集を行う必要があると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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