研究課題/領域番号 |
23531058
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山下 晃一 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (80324987)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 教育行政 / 学校経営 / 学校政治 / 地域と学校 / 教師-保護者間関係 |
研究概要 |
本年度の研究では米国における近年の研究動向をレビューし,設定課題の推移,諸概念の規定,事例分析の概要と手法,蓄積された知見等の整理・評価を行った。次いで,学校において展開されるミクロ・ポリティクスの現状・特質・課題を解明する上で有益と思われる二つの具体的検討テーマを設定して,それぞれ個別論考としてまとめている。 第一に,教師と保護者間の関係性を根源的に考えた場合,その政治力学の淵源として大きな影響を持つことから,教員養成段階における問題状況と取り組みに着目した。近年の米国における学校-地域間関係に関する研究動向を捉えると,教員養成段階から取り組むことの必要性・有効性が強く指摘されていることが分かる。このことは従来,十分に着目されておらず,またわが国でも理論的実践的に重要な論点となりうることから,その概要と特質について解明を試みた。その結果として,社会経済的要因等の規定力の強さから,教員志望者に無力感や罪悪感のみをもたらすおそれも残る一方で,教師としての専門的権威を帯びる前の段階でこそ「異文化」としての保護者・地域の実態を直視し,教師としてのアイデンティティ形成に織り込みうるとの信念の下,学校教育固有の役割に即して,保護者との関係構築を目指すことのできる基礎的な資質・能力が育成されようとしていることを明らかにした。 第二に,本研究計画が予定した具体的素材の一つである米国スモールスクールについて,とりわけ一定の規模及び空間内における諸主体の関係性と教育実践との相互作用の観点から,従来は十分に照射されなかった理論的基盤について整理・吟味を行った。その結果,規模・人間関係の質・学校組織ガバナンスの密接な連関によって「真正の教授」を目指すという基本的構図が浮かび上がった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では,まず資料収集面で当初予定していた資料の収集を概ね終えることができ,また今後の研究展開において重要な意義を持ちうる米国の論考が発表されたため,それを入手したほか,これまで出典が判明せず探索中であった歴史的資料の所在を突き止めることができ,それも入手できる等,期待を上回る成果を上げることができた。 米国の研究者との連絡調整については,次年度に予定していたものが本年度,繰り上げて実施することができた。だが昨年度末で現役を引退された後,交通の便の良くないところに転居されたため,直接対面しての聞き取り調査が難しくなったことが明らかになった。その代わり,後継者と目される他大学の現役研究者を紹介していただけたので,次年度における訪問の計画を立てることができた。 成果の取りまとめの面では,上述のように学術論文2編を執筆したほか,学会発表を3回行うこともできた。当初の予定では,それぞれ1編・1回ずつの予定であったため,当初の予定を上回る成果を上げることができたと考える。ただ,社会科学系の場合,考察等は質的側面が非常に大きく,それは主観にも左右されるため,自己評価としては上記の通りとしておきたい。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,第一に「学校のミクロ・ポリティクス」に関する近年の米国における事例研究をいくつか収集・解析して,その分析枠組,調査手法,結論等に関する傾向・動向の解明に努める。特に,諸施策に対する教職員の意識の変容,校長のリーダーシップによる最低限の合意・秩序の形成とゆらぎ,保護者・住民等の参入者の位置とはたらき,教育委員会事務局の学校に対するスタンス等に焦点を当てて,米国の研究動向についての方法論的考察をまとめる。 第二に,もう一つの具体的素材である「スモールスクール運動」から対象校を選定して,事例研究を行う。実際の調査対象校については,ニューヨークもしくはボストン・シカゴにおける取り組みを分析する予定である。当初,フィラデルフィアも予定していたが,研究動向のレビューをふまえた場合,これら3市に絞った方が望ましいと思われた。 以上2点の目的を達成するにあたり,一つには学校政治論の系譜を歴史的に遡り,その本質解明と制度理念の再構築に資するため,米国における教育委員会制度・学校会議制度の原点に立ち戻る作業が必要である。もう一つには,現代的事実動向を追跡する際に,諸主体の要求・利害関心が先鋭化して対立するような局面に焦点を当てた事例検討が必要である。これら二つの留意事項が,今年度の研究成果から判明したことである。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の研究費については,外国調査旅費に関して先方とのスケジュール調整の結果,当初の予定よりも1泊少ない旅程となったため,その分残額が生じた(約14,000円)。この金額については,次年度の外国調査において二か所の渡航調査を予定しているため,それに必要な所用費として充当する予定である。 また,当初研究計画の予定通り,研究文献,実地調査の実施,研究成果発表の実施を柱として研究費を使用する予定である。その他,調査結果のテープ起こし・文字化,資料の分類整理等に謝金およびその他経費を用いる。
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