研究課題/領域番号 |
23531058
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山下 晃一 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (80324987)
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キーワード | 教育行政 / 学校経営 / 学校政治 / 地域と学校 / 教師―保護者間関係 / 国際情報交換 |
研究概要 |
今年度の研究では以下の3点に焦点を当てた研究を進めたところである。 第一に,教師―保護者間の関係について,昨年度から継続して教員養成における実践をさらに掘り下げて教育方法上の特徴を検討すると同時に,政治力学が一層鋭敏化すると思われる特別支援教育をめぐる状況についても事例収集・分析を進めた。特に後者では,教師と保護者間の対立・葛藤を前提としつつも,それが,児童生徒の特別な教育的ニーズに応じた“教育サービスや支援の内容の質,それらの発展・進歩”に関心を向け,少しでもその向上に資するような形へと政治力学が移行することをめざし,紛争解決制度が構築されている様相を看取した。このことは,今後の学校ミクロポリティクスをふまえた学校経営制度の構想へ向けて重要な示唆を与えうる。 第二に,学校に流入する保護者・住民の意向の扱われ方について,単純な民意反映は,教育の社会的規定の目的化を強化する傾向を有し,不平等化装置としての学校の機能強化・社会の消極的再生産等を結果しうる,という問題への配慮を優先させる必要性を明らかにした。昨年度に入手した資料をわが国での受容状況と重ねて検討した結果,教育委員会制度の原型である学校会議を再評価することによって,教育固有の政治のあり方の特性的原理として,民意の可謬性,市民の学習に基づく選好変容,設置単位・範域等を導き,学校ミクロポリティクスを考える際の評価尺度を形成した。 第三に,これらの力学の下で実施される学校評価の問題について,社会的公認の質という観点からの検討を行った。さらに教員評価の問題に絞って考えたとき,適切な制度設計を欠いた状態では教師への過剰な責任追及に終始するという問題に対して,米国の論者の議論をひもとくことによって,発達への助成的介入の筋から教師の貢献度を確定し,それを保護者・住民・社会の側が理解・錬成していくという展望を示した
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では,まず資料収集面で,注目していた米国論者が新たな研究成果(学術図書)を刊行し,その内容が本研究にとって非常に有益な理論的基盤を与えるものであり,上記実績にも重要な役割を果たすことになった。この資料を手がかりに重要な資料の収集につなげることもできた。 米国の研究者との連絡調整については,学校評価・教員評価研究の第一人者との面会を果たすことができ,これまで未解明であった米国における学校・教員評価原理の理論的淵源について確認することができた。それと同時に,学校ミクロポリティクスを考える上で,教師の世代間での発想・感覚の違いが拡大している点が重要であるとの助言も得られ,今後の研究を進める上で貴重な発想の素になるものと思われる。 また,実地調査については,サンフランシスコ郊外の学区においてスモールスクールの典型的成功例と目される小学校を訪問することができ,校長・教頭等にインタビューを行うと同時に,内部資料を入手することができた。また,様々な課題を抱える地域・保護者との関係について,抑圧でもなく全面受容でもなく,教師の専門性の変容を通じた対応のあり方の萌芽を確認しつつある。 成果の取りまとめの面では,図書(分担執筆1編),学術論文2編,学会発表3件と,当初の計画を大きく上回る研究成果を残すこととなった。ただ,社会科学系の場合,考察等は質的側面が非常に大きく,必ずしも回数が研究成果に比例するものではないと考えられるため,自己評価としては上記の通りとしておきたい。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年次となる今年度には,当初の予定通り,これまでの研究成果を踏まえて,わが国への適用可能性を念頭に置いた論文を取りまとめたい。ただ,可能であれば,米国の事例を参照するだけでなく,わが国における「学校のミクロ・ポリティクス」の事実分析にも着手したい。時間の制約上,比較研究にまで仕上げることは難しいかもしれないが,本研究の成果を活用・援用しつつ,試論的に国内の素材について事例研究の可能性を模索する。とりわけ,教員評価制度の急進的な改革が実施される状況下が,米国の実情と共通する側面を持っており,わが国においても教師の勤務意欲や教育内容等に大きな影響を見え始めており,本研究にもわずかながら期待の声が寄せられている。それらに応えるためにも,できるだけ日米比較の観点を織り交ぜていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の研究費については,当初予定していた2カ所の訪問調査について,うち一カ所が他の渡航で調査を兼ねることが可能だと判明したため,1カ所にとどめている。その代わり,昨年度に引退のため訪問を断念した研究者と知己の日本人研究者と知り合うことができ,彼の下へ案内していただけるかもしれないとの話になっている。この調整が順調に進めば,研究計画当初の目的を果たすため当該研究者を訪問し,また,研究成果の確認および次期研究課題の展望を兼ね,再度訪問調査を行うことができればと考えている。 また,当初研究計画の予定通り,研究文献,実地調査の実施,研究成果発表,報告書作成等を柱として研究費を使用する予定である。
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