最終年度の研究では,当初の研究計画に即して,とりわけ教師に対する抑圧的な影響力を及ぼす学校内部のミクロポリティクスの構造について,近年,教育改革上の重要争点となり続けている教員評価の問題に焦点を当てて解明し,教育成果における教員以外の要因への着眼の困難性,個別教員・学校の成果と学校群全体の成果との関係性,結果測定の静的尺度から動的尺度への転換,さらには多忙化と教員評価,教員への社会的承認と支持と教員評価制度との関係等,わが国における実践的含意に注力しつつ論考をまとめた。 また,これら研究成果をベースとしつつ,特に学校における教育内容・教育方法が教育改革全体から受ける影響についても知見を示すよう,一般向けの教育関連雑誌から寄稿を求められ,それに応じること等によって,当初の目的の一つであった研究成果の社会への還元についても可能な範囲で努めた。 さらに,既存の学校内部にとどまる視野から,教育委員会制度を視野にも入れ,教育行政の固有性の再検討にも議論を展開することができた。すなわち,同制度をめぐって,単なる市民の意向反映や,教育行政専門家と素人との抑制と均衡(チェックアンドバランス)に本質的理念を見出すべきではなく,現代教育実践が社会的諸関係の中で経済的要因,感情的要因(信頼,ルサンチマン等)に根ざす権力から影響を受ける実態をふまえた上で,教師も保護者等の関係者が各々の影響力行使を教育に沿うよう自覚的に編み上げ直す営為と現象として学校のミクロポリティクスを再定義し,「教育政治」概念・実践の新たな可能性を見出す必要性を示しえた。こうして次年度以降の科研費(基盤C)採択研究課題へと発展させることのできる重要論点を析出するに至っている。
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