研究課題/領域番号 |
23531070
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
川上 泰彦 佐賀大学, 文化教育学部, 准教授 (70436450)
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研究分担者 |
妹尾 渉 国立教育政策研究所, その他部局等, 研究員 (00406589)
高木 亮 中国学園大学, 公私立大学の部局等, 講師 (70521996)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 教師 / 職能 / メンタルヘルス / 教員人事 / OJT |
研究概要 |
平成23年度は、代表者らがこれまでの研究を通じて収集してきた調査結果を活用して、本研究の枠組みにあわせた再分析を実施した。学会発表等を通じてこれらの知見を共有・検討するほか公的な議論を積み上げ、平成24年度に実施する調査の設計・仮説生成作業を進めた。また、これらの分析結果をもとに、いくつかの紀要論文も作成し、成果として公表した。 これとあわせて、新規の質問紙調査を3件、聞き取り調査を1件実施した。第一に、教師のメンタルヘルスをめぐる従来の議論において注目されてきた教師の「病気休職」に加え、その前段階である「病気休暇」制度に着目し、両者の運用に関する資料の収集を行った。具体的には、まず全国的な傾向を知るために各県教委等で公表されている資料の収集を行い、特に「病気休暇」制度の運用に地方間でばらつきがあることを発見した。次に「病気休暇」および「病気休職」制度の具体的な運用状況について知るために、A県内の各市町教育委員会に対するアンケート調査を実施した。加えて、A県内のB市からは許可が得られたため、さらに詳細なインタビュー調査を実施した。国レベル・都道府県レベル・市町村レベルそれぞれを対象とするこれらの調査により、教員のメンタルヘルスに関連する病気休暇・病気休職の運用(代員の手配や復職プログラムの実施を含む)について、自治体レベルでの実態とばらつきを明らかにすることができた。なお、これらの成果の一部は、平成23年度中に学会発表等の形で公表し、公開の場で議論することができた。 第二に、個々の教師のキャリアにおけるメンタルヘルス上の危機や、能力形成上のチャンスについても、試験的な事由記述形式の調査を実施した。これについては、平成23年度中に分析に着手することはできたが、考察の取りまとめや成果の公表については平成24年度以降に持ち越された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度に計画していた「実施済み調査データの再分析」については、順調に進捗した。本研究の枠組みに応じた新たな知見を見出すことができたのに加え、成果を学会発表等で発信できた。 なお、これらの分析過程では新たな研究関心が派生した。現在の政策論議等で一般的に使われている「病気休職」の前段階としての「病気休暇」制度がその対象で、運用に市区町村レベルのばらつきが見られることが判明した。この課題について平成23年度は、都道府県レベルの運用状況を資料収集から、一つの県を抽出した市町村間の運用差をアンケート調査から、特定の基礎自治体における運用状況をインタビュー調査から、それぞれ探索的に調査を進めた。一部については既に学会発表等で成果を発信しており、平成24年度にはさらに成果の発信を進める予定である。 また、教員個々人の経験レベルに着目した調査についても、探索的に実施することができた。自由記述を主体とするアンケート調査を通して、職場環境の変化が職能形成やメンタルヘルスにどう影響するかを問い、テキスト分析を行う準備ができた。この分析までが終われば、本研究計画の仮説構築を終了するという平成23年度中の研究進捗としては万全であったが、この部分については平成24年度に一部の分析を持ち越している。とはいえ、既にデータの収集は完了しているほか、平成24年度にも追加調査が予定されている。またデータの整理・分析も既に進んでおり、平成24年度中には分析成果の発表が可能であると考えている。 加えて、平成24年度に実施する予定のアンケート調査についても、実施可能な自治体との交渉を一部進めることができた。完全な実施規模の確定には至らなかったが、一定規模での調査実施が確約された。これらの研究計画と公表済みの成果は従来の教育行政学・教育経営学にはない独創的なものであり、この点でも順調に進捗したと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度については、何よりも本研究計画の核となる大規模アンケート調査の実施が控えている。平成23年度末から、いくつかの市町村教育委員会および都道府県の教育センターなどに調査の打診を行っており、既に一部では実施の確約を得ている。平成24年度前半には、調査対象の自治体をさらに拡大するとともにアンケートの質問項目等を確定し、7月・12月(・3月)という複数時点で調査が行えるよう、準備と協力者への調整を進める。 収集したデータについては、順次これを整理・分析し、得られた知見を教育委員会・教育センター等にフィードバックする中で得られた知見の検証を進める。もし可能であれば、平成24年度後半にも学会発表や紀要論文などの形で成果を公表したいと考えている。ただしデータ収集とその分析に時間を要することが想定されるため、平成24年度内に間に合わない場合は、翌平成25年度の前半に成果の公表を行う。、人事施策も含めたコンサルテーションを開始する。 いっぽうで、平成23年度に収集したデータの整理・分析についても、引き続き進めてゆく。「病気休暇」「病気休職」の運用をめぐるデータ収集については、成果を学会発表などの形で発信してゆくほか、新たな研究上の課題として浮かび上がってきた「病気休職」については、市町村教委・各学校レベルでの対応も含めて更なるケーススタディを重ねてゆく予定である。また、平成23年度に一度回収をした教員対象アンケート(自由記述)も再度実施し、個々の教員レベルでみたキャリアと職能成長・メンタルヘルスの関係についても分析を進め、年度後半には学会発表等の形で成果を発信する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
「今後の研究の推進方策」の欄にも挙げたとおり、平成24年度は大規模アンケート調査を予定しているため、その準備(用紙の印刷と発送)と分析準備(用紙の回収とデータ入力)への支出が見込まれている。 また、調査データの回収・分析後は市町村教委・教育センター・各学校(管理職)などへのフィードバックおよびコンサルテーションを予定している。調査協力を得た自治体・学校の意向によって活動の幅は変動するが、フィードバック用のレポート印刷・発送にかかる費用も見込まれる。またフィードバックにあたっては、代表者もしくは分担者が実際に調査先を訪問する必要も見込まれるため、そのための旅費等についても支出が見込まれる。これらが、昨年度と比較して新たに発生すると思われる支出項目である。 なお、研究代表者および分担者の勤務校がそれぞれ離れているため、回収データの分析等にあたって研究会を開催する際には、それぞれ旅費が発生する。また平成23年度内に得られた研究成果などについては学会発表による発信を予定しており、学会参加にかかる旅費も必要となる。これらの会議開催・学会参加にかかる費用については、昨年度と同水準での支出を予定している。
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