研究課題/領域番号 |
23531084
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研究機関 | 東京家政大学 |
研究代表者 |
岩崎 美智子 東京家政大学, 家政学部, 教授 (90335828)
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キーワード | 保育士 / 養護性 / 沖縄 / 関係性 / 困難 |
研究概要 |
平成24年度は、以下のような手順で研究が進められた。(1)研究会を定期的に開催し、「養護性」や「アイデンティティ」に関する概念の整理と確認を行った。(2)5月の日本保育学会大会では、23年度に実施した東京都内と沖縄県内の大学に通う学生を対象とする「養護性」の質問紙調査結果を発表し、それをもとにメンバーのひとりが論文を執筆した。保育学会では、発表内容に高い関心が寄せられ、研究者からの質問が相次いだ。(3)8月と10月には、東京とその近県在住の元施設保育士(70代)を対象にインタビューを実施して沖縄在住の元施設保育士との比較を試みたが、長年施設で働いたという条件を満たす対象者が2人しかみつからず、インタビューは実施したものの、比較は断念した。(4)自分自身が困難な状況にありながらも他者をケアするという保育士の「養護性」を考察するために、9月に岩手県を訪れて2011年3月に津波の被害に遭った保育所保育士にインタビューを実施した結果、職業倫理に裏づけられた高い養護性と他者との関係性の強さが見い出された。この結果は、2013年7月に中国で行われるOMEP(世界幼児教育機構)世界大会でポスター発表として報告をする予定である。(5)11月には、沖縄県の児童福祉関連の資料収集のため県立図書館を訪問し、合わせて文献に基づく解釈の妥当性を検討するため、児童相談所職員に聞き取りを行った。 平成23年度に行った50代の沖縄県在住施設保育士のインタビューについては、ソーシャル・ネットワーク理論を援用してデータを分析し、2013年5月に開催された日本保育学会大会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度に実施した50代施設保育士へのインタビュー内容を、前年に実施した70代元施設保育士との比較したところ、50代は地域との関わりが減少してはいるが行事には参加していること、70代元保育士と比べて女性親族との関係性の深さが見られ近代家族化していること、間接的な被養護体験が「養護性」形成の一要因である可能性が示唆されたなどの発見があった。 また、保育士に共通してみられる「養護性」の高さについては、被災後の困難な状況下でも子どもやその家族、地域の人々の支援者となっている岩手県内の保育士たちへのインタビューをとおして、沖縄県の保育士たちと共通する職業倫理と責任感を確認することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今回の研究では50代施設保育士をおもな対象としているが、世代間の差を比較検討するために、30代の保育士たちに同様の調査を行うことを検討しており、現在調査対象候補者に依頼中である。 それらの調査結果をふまえたうえで、「養護性」の形成要因を3つの世代を比較することによって再度検討するとともに、「関係アイデンティティ」概念の吟味を行う。平成25年度は最終年度にあたるため、プロジェクトメンバーそれぞれがいままでの学会報告等をもとに論文を執筆し、3年間の研究成果をまとめた研究報告書の作成を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、7月に中国・上海で行われるOMEP(世界幼児教育機構)において研究代表者と連携研究者がポスター発表を行うため、参加費と旅費、ポスター作製費を使用する。また、11月には、沖縄在住の30代施設保育士の「養護性」を調査するために沖縄を再度訪問してインタビュー調査を実施する予定である。旅費・謝礼・テープ起こしなどの費用が必要になる。また、次年度は最終年度にあたるため、今までの研究成果を報告書としてまとめるため、印刷・製本費を使うことになる。以上がおもな執行予定の予算費目である。
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