研究課題/領域番号 |
23531099
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研究機関 | 女子美術大学短期大学部 |
研究代表者 |
山田 朋子 女子美術大学短期大学部, その他部局等, 教授 (50331418)
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キーワード | 学校改革 / 教育支援 / 学校制度 / 文化的資本 / 「諦め」意識 / 貧困 |
研究概要 |
本年度の研究は、以下のように実施した。 今年度の調査に向けた必要項目の設定を行うため、国内での新たな先行研究を収集したところ、本研究課題にとって注目すべき先行研究として「教育と格差の発生・解消のメカニズムの調査研究」の成果が発表されていた。一方、アメリカ合衆国において行われている、教育困難な学校や貧困層の子ども支援のための新人教員派遣プログラムを持つNPO法人「TFA(ティーチ・フォー・アメリカ)」および、そのモデルを日本に導入しつつあるNPO法人「TFJ(ティーチ・フォー・ジャパン)」の活動についての成果もみられた。そこで、それを受けて日本における当該団体を訪問し、聞き取り調査と資料収集を行った。 また、本研究申請時の計画の中で、昨年度はアメリカ合衆国ハワイ州を対象とした現地調査を実施し、学校現場において資料収集をおこなっているが、本年度はそれらの資料についての分析を行った。また、調査対象とした学校の教員が来日した機会を利用し、昨年度得た資料についての確認および新たな動向についての情報を得るなど、聞き取り調査を行った。さらには、ハワイ州オアフ島の中でもっとも貧困率の高い西部地域の学校および子どもの支援事業「KONISHIKI基金」を行っている小錦八十吉氏(同地区出身)から、同地域の実情と子どもの課題についての聞き取り調査を実施するとともに、調査対象校および教員に連絡を取り、来年度の同地域での訪問調査に向けての準備調査を進めた。 研究成果の公表については、関東教育学会において、これまでの国内外の調査結果を踏まえ、ハワイ州での調査の分析結果を中心に研究成果を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の全体構想は、多様な困難を持つ生徒が、自分の将来に意欲を失い「諦め」、苦悩する状況を転換し、将来の人生に意欲的に取り組んでいく力の育成をするため、どのような支援が必要で有効となり得るのか、そのシステムを構築することにある。その中で本研究の目的は、子どもの背景にある家庭環境において、経済力が低い場合であっても文化的な側面が高ければ将来への意欲を高められることを事例から示し、そのために可能な学校教育における支援のあり方を検討することである。 この目的に対して、国外での調査研究について、現段階ではおおむね順調に進展している。今年度は、昨年度の調査対象校での新たな取り組みについて聞き取ることができた。また、子どもが将来の自分の可能性を信じられる力を育成することを目的として取り組まれている「KONISHIKI基金」の概要を把握できた。 今年度中に予定していた、ハワイ州オアフ島西部の当該地域での調査については、現地の調査対象校の事情により準備が整わなかったため、次年度に移行させた。 さらに、意欲が高い若手教員を貧困層の子どもの在籍率が高い教育困難校に派遣し、教員への様々なサポートをしている新人教員派遣プログラム「TFA」の活動内容では、若手教員とともに学んだ生徒達の意欲が向上しているとの成果も明らかにされていることがわかった。併せて日本での「TFJ」の取り組みの収集資料と聞き取り調査からは、そのプログラムが「意欲」を高めるために学校教育として可能な子どもへの支援策の一つとして着目できるものと評価できた。 一方、「教育と格差の発生・解消のメカニズムの調査研究」によって明らかにされた成果を踏まえ、本研究の独自性と意義を再確認する必要があると考え、その検討に時間を費やした。そのため、本年度に予定していた国内調査は、次年度に実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策として、新たな先行研究を収集しつつ、調査対象校および対象者の聞き取り調査と資料収集を行う。調査対象について、国外では引き続きハワイ州の貧困層に着目し、昨年度から継続している対象校の調査と「KONIOSHIKI基金」での支援の成果を調査する予定である。また、TFAの活動内容とその成果についても、現地調査を実施できるよう方向性を探りつつある。 国内については、本研究の独自性と研究の意義を確認しつつ、都道府県教育委員会における施策の方向性を探り、本研究課題に関連する新たな取り組みを抽出し、実践校への訪問調査を行う。加えて、TFJによる若手教員支援プログラムの実態から、生徒の「意欲」形成に対してどのような支援が行われているのかを具体的に調査する。 一方、昨年度に続けて、研究成果の発表を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、国外および国内での学校への訪問調査、教育行政機関での資料収集、専門的知識を得るため等の調査旅費および謝金、研究補助の人件費、通信運搬費、資料収集に使用する携帯型小型パソコン及び周辺機器の購入費、SDカードなどの記憶媒体の購入費、現地移動のためのレンタカー賃貸費、収集資料処理のための人件費、資料コピー費、文献資料購入費、研究情報の収集及び発表のための学会費、旅費、などの費用を計上する。
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