研究課題/領域番号 |
23531108
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研究機関 | 関西国際大学 |
研究代表者 |
苅谷 剛彦 関西国際大学, 公私立大学の部局等, その他 (60204658)
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キーワード | 教育政策 / キャッチアップ / 教育改革 / 近代化 / エリート形成 / 比較社会学 |
研究概要 |
本年度は前年度から引き続き、政策文書と歴史文献の検討、分析を行った。とりわけ、近代化の過程で、西欧の影響がどのように日本で受けとめられてきたのかを、平川祐弘氏や芳賀徹氏などの比較文化史の先行研究を中心に検討を行った。幕末・明治期の西欧との接触がいかにキャッチアップの必要性を日本人に埋め込んだかを理解するための精神史的なアプローチを理解するための研究であった。主に明治期の知識人の文献解読を中心としたこれらの研究を通じて、アジア社会の中で独自の道を歩み始める段階での日本人の意識の中に、特定の領域における欧米からの遅れを過度に意識する構造がすでに芽生えていたこと、それらが、戦後まで克服されないままに残された可能性を探ることができた。キャッチアップの必然性を理解する上での基礎作業となる研究の蓄積を達成できた。 戦後段階の歴史文書の分析としては、エズラ・ボーゲルの『ジャパンアズナンバーワン』をめぐる知識状況について文献収集を行うとともに、その読解を行った。とりわけ、日本でベストセラーとなった時期にどのようにこの本が紹介され読まれたのかを雑誌レベルにまで下りて文献を収集した。また、同時期に海外ではこの本がどのように読まれていたかについても分析を行った。キャッチアップ終焉意識の引き金となるこの本の出版とそのベストセラーかという現象を追うことで、70年代後半の日本社会の意識構造の中に、海外の有識者による認定がどのように影響したのかを考察することができた。 教育政策関連の文献リサーチについては、エリート教育との関連でイギリスの大学教育における政策について研究を行った。その過程で、英語のmodernization が近代化と同時に現代化という意味をもつことが明らかとなった。現代化として現在進行形の意識をとらえることで、日本との比較にとって意味をもつ知見の一つである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アメリカでの聞き取り調査を予定していたが、種々の理由で今回はアメリカへの渡航ができなかった。日本滞在中のインタビューにおいても日程の調整が不調に終わり、公文俊平氏への聞き取りは実現できなかった。また台湾を加える予定であったが、それよりもアメリカからのインパクトをとらえた方が、史実に迫れる可能性が高いとの認識で、その予定も変更した。文献研究を通じて得られる知識の蓄積を優先した方が良いとの判断からの変更である。これらの変更により、当初今年度に予定されていた聞き取り調査にやや遅れが出たが、その分、どこに焦点づければよいかについてより明確な指針が得られたので、それを来年度に生かすことで挽回が可能だと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
エズラ・ボーゲルの『ジャパンアズナンバーワン』の出版が日本におけるキャッチアップ終焉意識の形成に大きく与っていることが今年度の研究からある程度明らかになったことから、この面でのさらなる分析と、教育政策との関連を探る研究が必要であることが判明した。そのため今年度は、24年度に実施できなかったアメリカと日本での聞き取り調査を中心に、さらに文献調査を深めていきたい。また、これまでの研究実績を踏まえ、日本における戦後のキャッチアップの教育政策面での実施過程について、英文での発表を行うことも今年度の目的の一つである。さらには、これまで高等教育政策を中心にしてきたが、日本人の精神形成における教育政策の特徴を幅広く捉えるためにはより低い教育段階についても目配りが必要だとの認識を得た。とりわけ個人の自立をめぐる議論は、幼児段階の教育に西欧の思想の影響がどのように反映してきたのかを理解することが重要である。その点で、濱名陽子関西国際大学教授に共同研究者として参加してもらい、その部分の知識を補っていきたい。 25年度は最終年度にあたるので研究成果の発表を意識しながら研究のまとめを行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
文献調査に必要な費用と日本とアメリカでの聞き取り調査に必要な旅費、ならびに英語での研究発表をスムーズに行うための翻訳・英文校正のための謝金が主たる使用目的となる。
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