本研究の目的は日・米・仏3カ国の大学入試の問題分析とその準備学習の現地調査を通して、各国の試験ではどのような方法でいかなる能力を測定しているのか、それは社会で求められる能力といかに関連するのかを3カ国の能力観のモデル化を試みて明らかにすることにある。最終年度にあたる本年は、これまで調査校との日程調整がつかなかったために延期されていたアメリカの高校における準備教育の現地調査を行い、4年間の調査結果のまとめとしてモデルを完成させ、国際学会で発表の後、英語論文にまとめてComparative Sociology誌への掲載が決定した(2015年5月発行予定)。 アメリカの調査では入試準備は、知識内容よりもエッセイを書く訓練に重点が置かれていることが教科を横断した特徴として明らかになった。分析的・説得的(analytical and persuasive)エッセイを書く指導と練習・試験が行われており、その量は文学と社会科学を合わせると年間で20を超えるエッセイの課題が出されていた。より示唆に富むのは、こうした分析的なエッセイに加えて、文学の授業では、個人的な体験や視点を重視したエッセイ(personal essay)の指導と訓練が行われていたことである。分析・説得のエッセイは、日本のセンター試験に相当するSAT 1の書く試験で頻用されるのに対して、パーソナル・エッセイは、個々の大学へ出願する際にSATの点数や成績とともに大学に送られ、特に有名私立大学での入学審査で重要な役割を果たすと言われている。パーソナル・エッセイではいかに自己の体験に依拠しつつ表現と視点に独自性を発揮させられるかが重要で、教師と生徒の信頼関係が無いとこのジャンルのエッセイの指導は難しく、生徒の社会資本と文化資本の有無が指導にも影響を及ぼす事が明らかになった。
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