研究課題/領域番号 |
23531117
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
平畑 奈美 滋賀大学, 国際センター, 准教授 (70520906)
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研究分担者 |
西山 教行 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (30313498)
森山 新 お茶の水女子大学, その他部局等, 教授 (10343170)
佐久間 勝彦 聖心女子大学, 文学部, 教授 (10162330)
杉山 茂 静岡大学, 情報学研究科, 准教授 (60303525)
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キーワード | 青年海外協力隊 / 日本語教育 / グローバル人材 / 国際経験 / キャリア形成 / 対外日本語普及 / 複言語主義 |
研究概要 |
研究代表者平畑奈美は、青年海外協力隊日本語教師隊員の聞き取り調査を終了した。調査の最終段階では、国際機関にて活躍するインフォーマントとして、ジュネーブの国連機関(UNICEF)でP-4オフィサーとして勤務する元隊員と、ロンドンの日本の公的機関でチーフアドバイザーとして勤務する元隊員を選択。日本語教師経験と、現在の業務との関連、キャリアパスのほか、近年の日本からの国際機関への応募状況などについても調査した。「日本語教育経験を通じてグローバル人材へと成長した」典型的かつ非常に貴重な事例の調査となった。 なお、分担者西山教行も、フランスの国際ボランティアについて海外調査を実施、現在結果の分析を行っている。その他分担者は、当該年度は新たな調査は行わず、収集データのまとめを行っている。また継続して、協力者を含めた全員による意見交換、情報収集を行っている。 収集したインタビューデータについて分析を開始、すでにそのうちの一部ついては、論文化し、書籍に発表した(2014年6月発行)。従来、「青年海外協力隊」全般を取り上げ、その「奥地前進主義」を検証する研究はあったが、「青年海外協力隊の日本語教師」を取り上げた研究はなかった。対外日本語普及の一環として行われる日本語教育に従事する隊員たちは、はからずも複言語主義を実践していること、「国際ボランティア」ではなく「職業人」でありたいと希望していることや、日本人アイデンティティの高まりを実感していることなど、今までになかった協力隊像が抽出され始めている。 また、研究メンバーと共同で、当該年度に3回の成果発表の場を設け、いずれも100~200名の来場者を集めた。そのうち2014年1月に京都大学で開催した、本科研の成果発表としては最大のシンポジウム「グローバル人材と日本語」には全国から来場者が集まった。インターネット上でも記録動画が配信され、反響を呼んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究活動それ自体は順調に推移しているが、当初考えていた研究仮説に修正を行ったほうがよいということが見えてきた。 所期の目的として「近年の若者の内向き志向を克服するための方策を考える」というものがあったが、調査結果から浮かびあがってきたのは、若者は実際には「内向き志向」とは言えないのではないかという、前提を覆す知見であった。少なくとも現在までの調査結果を見る限り、彼らが見かけ上の「内向き志向」を示すのは、海外に出ても、所属社会(日本の職場)からの承認に対する期待は満たされないという予測を立てているからだという帰結となる。 現在日本の留学支援、海外渡航支援が手厚くなっているのにもかかわらず、それがなぜ肯定的に受け止められていないのか。この方向性で研究を進めるためには、若者の意識調査を行うだけでなく、政策(特に「グローバル人材」育成政策)の分析も必要であるということが共同研究者との間の共通認識として形成された。そこで研究課題を拡大し、研究期間を1年延長して、より広範囲な事象を扱う方向へと舵を切り直した。 なお、共同研究者に関しては、佐久間勝彦が内臓疾患により研究中断、また杉山茂が体調不良により分担者を外れることとなり、研究の進捗に若干の影響が出た。佐久間勝彦は退院後、調査研究を続行しているが、杉山茂については本務遂行も困難な状況で、今後の協力も望めないことが判明した。この人的欠損を埋めるため、京都大学の大木充、名古屋外国語大学の尾﨑明人、慶応大学の鈴木孝夫、東京外国語大学の菅長理恵、埼玉大学の嶋津拓、また海外からはカリフォルニア大学サンディエゴ校の當作靖彦、国際交流基金ロンドンセンターの福島青史らが、研究協力者として本科研に参加した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度となる。研究代表者は、年度前半に国内1回、海外1回の発表を行うことが確定している。また適当な場があれば、年度後半にも最終報告を行う機会を設けたい。また、現在、本科研の研究成果の中間報告を書籍の形で世に問うべく、研究代表者、分担者、協力者合計9名を共著者とする本を作成している段階である。2014年10月に、くろしお出版より、仮題「グローバル人材と日本語」として発行される予定で、すでに初校がまとまり、現在校正作業を進めている。 さらに、本科研研究の最終成果報告も、研究代表者の単著としてまとめる企画を立てており、現在出版社(明石書店)と交渉中である。 最終年度の研究課題としては、次の3つに注目して進めていきたい。1.「グローバル人材育成政策」の分析、2.「日本人アイデンティティ」の実体と日本語教育とのかかわり、3.若年日本語教師の職業観形成、である。1については、すでにある程度の見通しがつきつつあるので、特に2と3に重点を置いてまとめていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
前述したとおり、主に2名の研究分担者が研究を中断し、研究費を返還したたことが大きい。また、その2名の研究を補うために、当該年度に終了させたかった質問紙調査を完了させることができず、データ処理経費に残額が生じたということもある。 研究費残額は、学会での研究発表のための出張旅費、秋に発行される書籍(科研報告書)の執筆を行う分担者や協力者との打ち合わせのための交通費、またフォローアップ調査と分析の費用、そして、質問紙調査のデータ処理経費として用いる。
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