研究課題/領域番号 |
23531119
|
研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
村上 登司文 京都教育大学, 教育学部, 教授 (50166253)
|
キーワード | 平和教育 / 平和啓発 / 平和構築 / ヒロシマ / 沖縄 |
研究概要 |
2012年度は前年度の調査結果を論文にまとめた。その内容は、①沖縄における小学生と中学生を対象とした調査結果を用いて、沖縄の戦争体験が平和学習に果たす役割を考察した。②京都教育大学附属桃山小学校の児童に対する調査により、修学旅行での広島学習を通じた平和学習の教育効果を検討した。③附属高等学校の生徒調査では、小中高等学校で積み上げてきた国際交流体験が、高校生の平和・国際意識の形成にいかに影響を及ぼしているかを考察した。 高校での調査では、広島と沖縄での平和学習を視野に入れ、現在の国際情勢の中で高校生がどのような平和・国際意識を得ているかを明らかにした。グローバル化状況が進展する中で、児童・生徒に平和意識や国際性を育てる観点から、附属の小学校と高等学校で意識・態度調査を実施して実態を把握することができた。 平和教育の比較研究として、ドイツを訪問し、ハイデルベルグ大学の平和教育研究者と、平和教育インスティチュート(チュービンゲン)のスタッフに対して面接調査を行い、ドイツの平和教育の実際について調査を行った。 平和構築を視点に入れたカリキュラム開発として、平和構築の教育のカリキュラム開発に向けて資料を収集した。平和教育授業研究会を開催し、年齢別発達段階に応じたカリキュラム案について提案した。学部と大学院での「平和教育論」の授業で、平和教育の実践力向上に向けて授業を行い、大学における平和教育カリキュラムのアクションリサーチを行った。その中で、受講者による平和プレゼンテーションにおいて、芸術作品の制作と発表を行う時の感情移入的アプローチが、態度形成に効果的であるとの知見を得た。 平和構築のための教育を行うために、児童・生徒の現在の意識と態度を、調査により実証的に明らかにしたことに意義があると言えよう。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①自治体と学校との平和教育の協同:東京と広島と沖縄に訪問して調査を行い、平和教育の実践の情報を得た。沖縄に訪問し、ミュージアムやガマなどを実地見学して、沖縄平和学習の教材の蓄積を確認した。沖縄における地方公共団体による展示活動など平和事業の実際を見聞した。ただし、地方自治体に対する数量的調査を実施する準備が整わなかった。 ②平和教育の比較研究:ドイツを訪問し、ハイデルベルグ大学の平和教育研究者と、平和教育インスティチュート(チュービンゲン)のスタッフに対して面接調査を行い、ドイツの平和教育の実際を調査することができた。 ③京都教育大学の「学びの森ミュージアム」において、「京都・伏見の戦争と京都師範学校」というテーマで展示を行い、博物館展示を用いた戦争学習が、学生の平和意識の形成にどのような影響を及ぼすかのデータを収集した。 研究実績で述べたように、児童・生徒・学生に対する意識・態度調査を行い、平和構築教育のカリキュラム化に向けた研究を行った。ドイツにおける実地調査を行ったが、学校訪問が今年度に持ち越されたので、昨年度の達成度については上記の評価結果となる。
|
今後の研究の推進方策 |
以下の研究推進方策を有する。 ①地域社会における平和構築の教育の実態の分析:学校での平和構築の教育における地域社会への働きかけの実態について比較分析し、同時に地域社会から学校に対する働きかけを比較分析することにより、協同のあり方を考察する。特に、広島市教育委員会と学校が連携しながら、核廃絶と平和貢献に向けて平和構築の教育を進める「平和教育プログラム」の実施状況を検討する。広島の平和資料館および平和文化センターの地域への発信活動を、平和構築教育の視点から分析し、その効果の検証方法を検討する。 ②特徴的な平和啓発活動を行っている団体を抽出し、平和構築の視点から、JICAの海外教育協力事業、ユニセフの募金活動、あしなが育英会の海外協力事業、海外NPOのフォスターペアレントの実際の活動について調査する。 ③平和教育の比較研究:2010年にドイツで行った意識調査の調査協力校(中等学校8校)などで面接調査を行い、生徒たちの平和構築意識の教育的背景を探る。授業観察などの実地調査を行うことにより、平和構築の教育が国によりいかに相違するかを考察する。 ④平和構築の教育のカリキュラム開発:平和構築の教育のための内容と方法について検討し、学生や児童・生徒の平和構築への参加態度がどのように規定されるかを探る。京都教育大学で、学部と大学院で行っている平和教育論の授業において、「平和構築の教育」の視点で授業を構成し、事前・事後調査を行うことにより受講生の平和教育の実践力に及ぼす影響を測定する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
①附属学校における平和・国際教育の実践を平和構築の視点から評価し、平和教育カリキュラムを発案:特に中学校のおける沖縄修学旅行を検討し、沖縄学習による平和学習と国際理解の方策を検討する。アクションリサーチとして、実際に附属の先生方と実地研修を行いながら、平和・国際教育の教育目的を構造化し、その評価方法について検討する。沖縄に8月に訪問し、平和・国際教育のカリキュラム化に向けて実地調査を行う。 ②自治体の平和事業や平和構築団体が行う平和啓発活動の分析:広島市の平和教育プログラム、那覇市にある沖縄JICAの平和構築事業、京都市における国際観光都市事業などを事例として、地域社会から学校に対する働きかけの事業例を比較分析する。 ③平和構築の教育の国際比較分析:ドイツで行った質問紙調査(2010年実施)の調査結果を再分析する。8校のギムナジウムを比較分析し、平和・国際教育の領域において「力のある学校」を絞り込む。9月にドイツで訪問調査を行い、日本の平和構築の教育と比較検討する。日独英などの平和構築の教育について特性を抽出し、比較分析により日本の平和構築の教育における学校と地域社会の協同のあり方を考察する。 ④平和構築の教育のカリキュラム開発:京都教育大学において、「平和教育論」の授業で「平和構築の教育」の位置づけを検討し、小中学校における「平和・国際教育のカリキュラム案」を作成する。ここまでの3年間の研究成果を発信するものとして、一般教師向けに『平和構築のための教育(案)』を発行する。それを基に、平成26年度に京都教育大学の公開講座で「平和構築のための教育の入門」のテーマで開講する準備を行う。
|