研究課題/領域番号 |
23531121
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
齊藤 貴浩 大阪大学, 大学教育実践センター, 准教授 (50302972)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 大学評価 / 利害関係者 / コンフリクト / 外部質保証 / 内部質保証 / 情報公開 |
研究概要 |
本研究の目的は,わが国の高等教育機関が置かれている利害関係の中で,各種の評価の総体をシステムとして捉え,最適な大学評価の枠組みを開発することである。今年度の計画は主として利害関係モデルに関する仮説構築のための資料の収集と検証であった。 高等教育機関を中心に、社会、行政(監督官庁としての文部科学省、及び関係する内閣(府)や財務省等)、高校や進学希望者またはその保護者、学生自身、卒業生及び卒業生を受け入れる企業、そして大学の教員と職員といった、多種多様な大学の利害関係者の存在を明らかにし、その関係性について検討を行った。 具体的な調査としては、今年度は特に大学内部の内部質保証制度と外的システムとの関わりに着目し、米国のカリフォルニア大学機構及び同バークレー校の大学関係者と懇談を行ってIR(機関研究)や学生調査の意義について調べた。その結果、教育研究の成果の明示がより強く問われる中でIRが大学の内部質保証の基盤として機能しているとともに、社会と大学との接点として大学のデータと情報公開が重要な意味を持つこと、そして今後の内部質保証のあり方として学生調査が極めて重要な取組であることを確認した。加えて、国の政策としての日中韓の質保証の枠組みの中で、中国の内部質保証の実態について調査を行い、その結果、中国においては内部質保証と政府による統制は実態としてほぼ同一であり、最低限の質保証という統制の面では大学の自治的概念が制限されているものの、質の向上の面では現場の裁量において先進的な取組を多く行っていることを確認した。このことは、我が国以上に規制が厳しく、しかし競争的市場であるという中国の大学の振る舞いから、大学と政府との関係を一般化する上で重要な事例となると考えられる。また、これらの訪問調査以外にもさまざまな機会に資料の収集を行い、我が国の大学評価を取り巻く状況についての理解を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、「わが国の大学評価を取り巻く要因の調査・検討」、「欧米諸国の大学評価システムに関する情報収集」、「高等学校の進路指導主事を対象とした質問紙調査」の3つの項目を当初計画として研究を進めた。 「わが国の大学評価を取り巻く要因の調査・検討」については、様々な機会を通じて大学評価に関する情報を収集しており、またこれまでの研究成果の一部を大学評価機関等において直接的にも間接的にも政策・施策に還元している。「欧米諸国の大学評価システムに関する情報収集」については、大学評価の先進的地域という意味合いから欧米の調査のみを予定していたものの、日中韓の高等教育の質保証の動きが顕在化するなどアジアでの動きが予想されたため、当初の予定に加えて他の研究者とともに中国の大学及び質保証機関での訪問調査を実施することとなった。その意味においては、研究の対象が拡大しており、最終的により深い研究結果が得られることが期待できる。一方で社会調査に関しては、高等学校の進路指導主事を対象とした質問紙調査は翌年度に実施することとした。これは、当初申請額からの減額と、研究予算のさらなる減額が予測されたことから、平成24年度の社会調査と同時期に実施することでデータ入力等の調査に伴う作業を効率的に行おうとする意図によるものである。また、平成24年度から、研究代表者は所属期間内で前述のIR(機関研究)的な機能を有する部門へと異動しており、より有効なデータ収集が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、「わが国の大学評価を取り巻く要因の調査・検討」、「他国の大学評価システムに関する情報収集」、「高等学校の進路指導主事、及び企業等の人事・採用担当者を対象とした質問紙調査」の3つの項目を継続的に進めていく。「欧米諸国」としていた計画を、アジアにも目を向け、より広範な視点から継続的に大学評価のあり方や情報提供のあり方について検討をしていく予定である。なお、平成24年度から、研究代表者は所属機関内で前述のIR(機関研究)的な機能を有する部門へと異動しており、より有効なデータ収集が期待できる。 現在、中央教育審議会では学生による学修を中心とした審議を進めており、また昨今の不透明な労働市場から、例えば、学生が大学進学を良い就職先を得る機会として見なす度合いが減少するなど、学生、企業、高校関係者による大学の見方は急激に変わってきているものと予想される。本研究では、それらの時代の変化も迅速に捉えつつ、平成25年度の研究結果のとりまとめに結びつけていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた理由は当初申請額からの減額と、研究予算のさらなる減額が予測されたことから、平成23年度の高等学校の進路指導主事を対象とした質問紙調査を平成24年度の企業等の人事・採用担当者を対象とした質問紙調査と同時期に実施することでデータ入力等の調査に伴う作業を効率的に行おうとする意図によるものである。基本的に研究計画に変更はなく、着実に研究を進めていく所存である。
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