研究課題/領域番号 |
23531121
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
齊藤 貴浩 大阪大学, 評価・情報分析室, 准教授 (50302972)
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キーワード | 大学評価 / 利害関係者 / コンフリクト / 外部質保証 / 内部質保証 / 情報公開 |
研究概要 |
今年度は、「わが国の大学評価を取り巻く要因の調査・検討」、「他国の大学評価システムに関する情報収集」、「高等学校、企業等の主たる利害関係者を対象とした調査」の3つの項目を中心に進めた。 「わが国の大学評価を取り巻く要因の調査・検討」については、様々な機会を通じて大学評価に関する情報を収集しており、またこれまでの研究成果の一部を大学評価機関等において直接的にも間接的にも政策・施策に還元している。特に、本年はマレーシアの高等教育評価機関(MQA: Malaysian Qualifications Agency)の招待を受け、10月に開催されたASEAN+3 Forum of Quality Assurance in Higher Educationにおいて、日本の大学の内部質保証について講演をする機会を得た。ここでは、大学の立場から大学の内部質保証について講演し、大学内部における評価を、最低限の質保証、質の向上、そして最終的には価値の向上に結びつける過程について発表を行うとともに、それに対する意見を聴取した。他にも、大学のFD等の場において、研究成果の発信と貢献に努めている。「他国の大学評価システムに関する情報収集」については、昨年度に引き続き、欧米諸国ならびにアジア諸国の大学評価システムについて、特に利害関係者との緊張関係を考慮しつつ文献収集を行い、知見を深めた。利害関係者への直接的な調査に関しては、大学ポートレートの進展と共に、既に各所で調査研究が為されているため、それらの調査結果、ならびに研究者の所属する組織の当該調査結果との整合性を見ながら調査研究を進めているところである。 また、大学の利害関係者として最も重要な大学生への調査研究も進んでいるところであり、カリフォルニア大学バークレー校の関係者との協働により、本学を対象とした学生への調査を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,わが国の高等教育機関が置かれている複雑な利害関係の中で,高等教育に関わる各種評価の総体をシステムとして捉え,最適な大学評価の枠組みを開発することである。基本的に研究計画に大きな変更はなく、着実に研究を進めており、今年度までに、各々の利害関係者に関して調査を行い、大学評価を通じて実際にどのような情報を求めているかについて情報収集を行いつつ、モデル化を試みた。 特に本年は、6月に文部科学省より「大学改革実行プラン」が公表され、そして8月には中央教育審議会より「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」と題した答申が公表されるなど、政策的にも大きな動きがあり、大学評価をとりまく状況も大きく変化した。特に、大学ポートレートの活用による大学情報の公表の徹底は、評価を通じて大学の情報を提供しようとする本研究の意図するところであり、このような動きについて本研究は間接的に貢献しているものと考えられる。 これから教育面での大学情報は、学生が大学で何を学び、修了時には何を身につける(身につけた)のかに尽きる。本来であれば教育/学修の成果を見ることが最重要であるが、それらの成果は明示的に証明することは難しく、結果として学生が大学で何を経験してきたのかが問われる。この件について、米国のカリフォルニア大学バークレー校の大学関係者と懇談を継続して行い、本研究とも関係する来年度以降の将来的な学生に関する調査研究に結びつけた。 また、これら調査以外にもさまざまな機会に資料の収集と意見聴取を行い、我が国の大学評価を取り巻く状況ならびに利害関係者のニーズに関しての理解を深めた。その成果の一部を、学会発表、ならびに自他大学のFD等の場において公表し、研究成果の発信と貢献に努めている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、最終年度として、「わが国の大学評価を取り巻く要因の調査・検討」、「他国の大学評価システムに関する情報収集」、「高等学校、企業等の主たる利害関係者を対象とした調査」を継続して進めるとともに、最終年度の取り纏めとして、大学評価システムのモデル化を図り、最終的に研究成果として結実させる。研究代表者は、昨年度より所属機関内でInstitutional Research(機関研究)的な機能を有する部門へと異動し、現在その機能の整備を組織内で鋭意進めているところである。研究ではない本務によって得られたデータ自体の公表は困難ではあるが、その業務を通じて得られた知見を本研究の成果として活かしていく予定である。 前述のように、現在、大学に関わる政策は大きな転換点を迎えており、大学の本来の活動である教育研究の主旨を尊重しつつも、政策立案の過程で利害関係者の要請を無視することはできなくなっている。大学というシステムを社会システムの中で大きく捉え、変わる社会、変わる労働市場、変わる若者文化の中で大学の機能をどう位置づけるか、政府の見解を超えて、またそれを理論的に補完するものとして、次世代の大学評価モデルを構築していきたい。 また、国際的な教育の質保証を考えた場合に、大学改革実行プランや中央教育審議会答申において、大学生の学修時間が大きくクローズアップされている現状から考えるに、このような学生自体の問題と学生文化の問題をも、もう一度主たる利害関係者の問題として積極的に捉えつつ、最終的なモデル構築に結びつける予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた理由は、同様の調査研究が他にも実施されていることを勘案し、当初の本研究の目的を達成するものとして、利害関係者への探索的な大規模質問紙調査から、他の調査機会を利用しつつ確認のための訪問調査、情報収集の実施としたことによるものである。当該研究費は、最終年度に改めて利害関係者への大学評価モデルの確認の意味で調査を行うこととする。
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