研究課題/領域番号 |
23531122
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
中山 あおい 大阪教育大学, 国際センター, 准教授 (00343260)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 移民 / 学力 / 移民の支援 / 学力向上政策 |
研究概要 |
初年度の調査では、スイスとドイツの学力向上政策について政策的な枠組みを検証するための海外調査を実施した。連邦制をとるスイスではカントンのそれぞれに教育省があるが、連邦全体の教育向上政策の方針や課題について把握するために、カントン教育大臣会議 (die Schweizerische Konferenz der kantonalen Erziehungsdirektoren)の事務局において、連邦の学力向上に関わる政策に関する教育文書を収集するとともに、PISA等の国際的学力調査が教育政策にどのような影響を与えたかについて聞き取り調査を行った。 また、スイスのカントンのなかでも中心的なチューリッヒに着目し、チューリッヒの教育省において、学力政策の動向と移民の教育支援の現状について資料収集および聞き取り調査を行った。 さらに、チューリッヒ大学にある教育評価研究所のUrs Moser教授を訪問し、(1)スイスにおける学力調査の目的や、今までの調査分析結果について情報収集をするとともに、(2)移民の生徒に関する分析結果に関する資料収集とインタビュー調査を行った。 一方、ドイツにおいては、IQB(Institut zur Qualitätsentwicklung im Bildungswesen)によって学力と経済的・社会的階層との相関関係が明らかになっており、移民を含めた、社会的に不利な状況の青少年支援の状況について、ベルリンにある青少年施設(ヨハネス・シュティフト)を訪れ、聞き取り調査を行った。 ドイツに関する調査は国内外で進んでいるが、スイスについてはまだスイス国内でも調査が始まったばかりであり、その実態を把握することは意義があり、また両国を比較する研究は少ないため、本研究で得られる知見は新たな視点をもたらすと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主要な目的の一つは、「ドイツとスイスの移民の受け入れシステムや理念の違いを明らかにする」ことであり、そのために「スイスにおける移民生徒の受け入れ状況や教育プログラム、支援システムを明らかにし、今までのドイツの研究成果と比較分析するとともに、その背後にある、移民の受け入れ理念の相違を明らかにする」ことである。 23年度は主に、カントン教育大臣会議やチューリッヒ文科省において情報収集と聞き取り調査を実施した結果、スイスにおける移民の受け入れシステムや学力改善のための教育における方針や政策が明らかになった。スイスにおいてもカントン間の標準化が政策で目指されると同時に、移民受け入れのための支援政策が行われ、ドイツと同様の動きがみられる。一方、スイスのフランス語圏のカントンとドイツ語圏にカントンでは二世の成績に相違がみられ、ドイツと比較する上でも言語圏の違いという新たな視点がもたらされた。本年度で得られた知見は、次年度に現地の学校を訪問調査する際に、政策が実践にどの程度、反映しているのかを実証するために有効であり、またドイツとの相違を検討する上でも意義深いと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
24年度は、初年度に引き続き、スイスとドイツの学力向上政策と移民の教育に関連する資料・文献を収集整理し、その分析を行うとともに、研究項目と問題点を再検討する。そして、並置比較により共通点や相違点並びに相互影響関係を分析し、それぞれの特質と問題点を明らかにする。 また、前年の海外調査の結果を踏まえて、理論枠組みを再構成し、かつ調査の設計を必要に応じて修正する。スイスとドイツにおける学力向上政策への具体的な取り組みについて、スイスのカントンやドイツの州レベルでの実践を調査する。特にカリキュラムの改革や移民の学力向上を支援する教育実践を明らかにする。具体的には(1)移民が多く、ドイツ語圏であるチューリッヒ都市州と、フランス語が使用されているジュネーブ都市州において、学力向上政策や移民の教育支援に関する情報収集と学校見学を行う。さらに(2)ドイツでは、23年度では日程調整ができずに訪問調査できなかったベルリンの教育省を訪問し、学力向上政策について情報収集と聞き取り調査を行うとともに、移民の多いベルリン都市州と、学力調査の結果の良い州に関して(1)と同様の調査を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は、23年度で明らかになったスイスの教育政策や移民の受け入れ支援策が、現場でどのように実践化されているのか、またドイツ語圏とフランス語圏の間に相違があるのかを訪問調査する(海外旅費)。またドイツについても、PISA以降の教育改革の方針が現場でどのように実践されているのかをベルリンを中心に調査する(海外旅費:「次年度使用額」の一部を充てる)。また、両国において学習指導要領等や移民に関する文献も収集する(物品費)。 海外での聞き取り調査については、23年度は3月に海外調査をしたためテープ起こしの納入が次年度に繰り越されたため、それを含めて24年度の聞き取り調査のテープ起こしを依頼し(謝金、その他:一部「次年度使用額」を充てる)、文献調査の結果を含めて、両国の移民受け入れの実態と理念の相違、それが学力向上政策とどのような関係があるのかを国内の学会で中間報告として発表する(国内旅費)。
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