研究課題/領域番号 |
23531125
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
児島 明 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (90366956)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 多文化教育 / 異文化間移行支援 |
研究概要 |
複数の文化間を生きる青少年の進路形成上の課題を把握するための基礎作業として、平成23年度は、1)先行研究の検討、2)日系ブラジル人青少年の進路形成をめぐる予備調査、3)カナダ日系人青少年の進路形成をめぐる予備調査を行った。具体的な内容は以下の通りである。 第一に、異文化間を生きる青少年の移行過程に関する国内・国外の先行研究を検討した。そこで明らかになったことの一つは、国内の先行研究においては異文化間を生きる青少年の学校での適応に関してはそれなりの研究の蓄積があるものの、移行過程そのものが抱える諸課題について包括的に把握しようとするものはほとんどないということであった。他方、海外の先行研究に目を向ければ、複数の地域における複数のエスニック・グループへの大規模な聞き取り調査などに基づきながら、「新移民第二世代」の移行過程を、国家の移民政策、家庭、学校、エスニック・コミュニティ、労働市場、地域の下位文化など、諸要因が複雑に交差するなかで展開されるものとして捉えようとする研究が急速に蓄積されつつあるようである。本研究においても、このような包括的な視点から青少年の移行過程を理解する必要があることが確認された。 第二に、日本とブラジルの〈はざま〉を生きる日系ブラジル人青少年の移行過程を理解するための予備調査として、東海地域に所在するブラジル人学校の教育の現状に関するフィールドワークを行った。学校関係者への聞き取りによって浮かび上がってきたのは、政策、労働市場、地域社会の間に生じるさまざまな矛盾が、子どもの不就学を容易に生みだしてしまう深刻な現実であった。 他方、第三の課題として実施したトロント市の日系人コミュニティにおける日本語・日本文化継承の実践についての予備調査で浮かび上がってきた現実は、青少年の学びやアイデンティティ形成を支える諸条件を考える上できわめて対照的と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
異文化間を生きる青少年の移行過程を支援するにあたって必要な諸条件を探るための基礎研究として、現在まではおおむね順調に進展していると考える。 第一に、国内における先行研究が少ないゆえに、本研究が向かうべき基本的な方向づけを得ることが初段階における最重要課題であったが、この課題は海外での研究蓄積から多くを学ぶことにより、かなり達成できたと考える。当然、関連文献の検討は今後も重要な課題であり続けるが、さしあたり異文化間を生きる青少年の移行過程を多次元的かつ多焦点的に捉えることの重要性を確認できたことで、今後研究を進めていく上で主要な指針を得ることができた。 第二に、以上のような視点にたった移行研究を進めていくためには、諸個人の移行過程を支える外的な諸条件についての理解が必要となるが、この点については、二つのフィールドワークを通して部分的にではあるが達成できたと考える。東海地域のブラジル人学校でのフィールドワークとトロント市の日本語学校(エスニック・スクール)でのフィールドワークを同時に行うことにより、移行過程を支える機関の存在の仕方(とりわけその制度的位置づけ)が青少年の成長に与える影響の大きさを窺い知ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、東海地域のブラジル人学校でのフィールドワークを継続し、そこを通過する青少年の移行過程についての包括的な把握を試みる。これまでは主に学校長およびスタッフへの聞き取り調査を行ってきたが、今後は、聞き取りの対象を子どもとその親にも広げていく。日系ブラジル人の日本への大量流入が始まってすでに20数年が経過した今日、親自身が少年期から日本で生活してきている例ももはや珍しくない。したがって、親自身の移行をめぐるライフヒストリーの丁寧な聞き取りは、子どもの移行を規定する諸条件を理解する上で不可欠な作業となるものと考える。 第二に、トロント市でのフィールドワークを継続し、日本在住のブラジル人とは対照的に、コミュニティ活動を通じて蓄積されたエスニックな資源を利用できる環境の下で、何らかのかたちで日本にルーツをもつ青少年がどのような成長の軌跡をたどるのかを、親の教育戦略とその効果などにも注目しながら解明していく。 第三に、以上のフィールドワークを通じて、「新移民第二世代」として位置づけられる青少年の移行過程が、国家の移民政策、家庭、学校、エスニック・コミュニティ、労働市場、地域の下位文化との接触などの諸要因にどのように影響されながら展開するのかを明らかにし、それぞれのコンテクストに応じた異文化間移行支援を実現するための諸条件について考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
〈物品費〉異文化間を生きる青少年の移行過程に関連する図書を中心に:30万円 〈旅費〉 トロントでの聞き取り調査を2回:30万円×2=60万円 東海地域での聞き取り調査を4回:5万円×4=20万円 人件費・謝金(テープ起こし、通訳謝金):18万円 その他(印刷費、写真現像費等):2万円
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