研究課題/領域番号 |
23531125
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
児島 明 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (90366956)
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キーワード | 多文化教育 / 異文化間移行支援 |
研究概要 |
異文化間を生きる青少年の移行課題を探るべく、平成24年度は次の2つのフィールド調査を実施した。 第一に、東海地域に所在するブラジル人学校を2ヶ月に1回のペースで訪問し、授業や行事を見学したり、校長、教員、保護者、生徒への聞き取りを実施した。学校関係者が自らの教育実践や学校の将来展望をどのようにとらえているのかという観点からの調査報告が十分になされているとはいえない現状を鑑みれば、ブラジル人学校の存在意義を内在的に把握するものとして、本研究は重要な意味をもつ。調査対象校は他の多くのブラジル人学校同様、各種学校でさえなく、保護者からの授業料収入をほぼ唯一の資金源としているため、経営はきわめて困難である。だが他方、フィールド調査を続けて見えてくるのは、こうした脆弱な経済資本を補いうる人的資本や関係資本の豊かさであった。校長や教員の資質は高く、保護者の信頼も厚いうえに、保護者と学校のつながりも強い。こうした学校環境が多様な背景を有する子どもの成長を支えている現実が明らかになった。 第二に、2012年9月にカナダ・トロント市を訪問し、日系人コミュニティにおける日本語・日本文化継承の現状と課題を探るべく、現地の日本語学校を訪れ、授業の見学や関係者への聞き取りを実施した。興味深かったのは日本語継承の現場において学習者の大多数は国際結婚家庭の子どもであることであった。そして、継承語教育の担い手もそうした国際結婚した新たな移住者にシフトしつつある。こうした現実は、言語や文化の継承を1つのエスニシティに限定して論じることの限界に気づかせてくれると同時に、「継承」の意味を再検討するためのまたとない機会を提供してくれるものといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数の文化間を生きる青少年の移行過程を理解し、適切な支援のありようを構想するための基礎研究として、現在まではおおむね順調に進展していると考える。 第一に、日本の教育システムにおいてはオルタナティブな学びの場と位置づけられるブラジル人学校に注目し、フィールド調査を続けているわけだが、それによって明らかになりつつあるのは、ブラジル人学校は特殊な実践が行われている場であるというよりも、むしろ、グローバル化の進む現代社会を生きる青少年が多かれ少なかれ直面する普遍的な課題に正面から取り組んでいる場であるという事実である。つまり、国境を越える移動のなかで進路を形成したり、人生のさまざまな段階で学びや学び直しが必要となる社会での教育上の諸課題に先進的に取り組む場としてブラジル人学校を位置づけることも可能であり、日本人も含めた青少年の移行支援を構想していくにあたって大きな示唆を得られることは間違いない。 第二に、国家として多文化主義政策をとるカナダにおける継承語教育の現状と比較することで、母語や母文化を学ぶことに対する制度的な支えの重要性が明確に浮かびあがってくる。青少年が自らのルーツを恥じることなく成長し進路を切り開いていくために重要な制度的ないし社会的諸条件を明らかにするにあたって、比較調査のもつ意味は大きい。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、東海地方のブラジル人学校でのフィールド調査を継続する。とりわけ次年度の主な課題としたいのが、当該校が開設している社会人向けの通信教育の現状把握である。この通信教育では、日本の小学校・中学校にあたる基礎教育課程を15歳以上、高校にあたる中等教育課程を18歳以上で受講することができ、必要な単位を取得することでそれぞれの教育段階の修了資格を取得することができる。現在日本に暮らすブラジル人の20代から30代の若者のなかには、学齢期に来日し、十分な教育を受けられないまま就労生活を送ることになった者も多い。こうした若者の自らの人生をやり直すため数少ないチャンスとして、通信教育は重要な役割を果たしている。受講者自身への聞き取り調査も実施し、成人教育の観点からも移行支援のあり方について検討を深めていきたい。 第二に、トロント市でのフィールド調査を継続し、日本語・日本文化を資源として継承することが進路形成にどのように関連するかについて考察を深める予定である。とりわけ、国際結婚家庭における言語・文化継承の現状について聞き取りを進め、多文化状況にある家庭の教育戦略とその効果などの解明に努めたい。 第三に、以上のフィールド調査をふまえ、「移民第二世代」として位置づけられる青少年の移行過程が、国家の移民政策、家庭、学校、エスニック・コミュニティ、労働市場、地域の下位文化との接触などの諸要因によってどのように影響されながら展開するのかを明らかにし、それぞれのコンテクストに応じた異文化間移行支援を実現するための諸条件について包括的な考察を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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